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「短歌研究」3月号の特集

※4000字+字がぎっちりの図表4枚。

※めんどくさい人は末尾のまとめだけ読んでください。

この記事を書こうと思ったきっかけ


 「短歌研究」3月号が出ました。特集は「現代代表女性歌人140人作品集」。
 これについての石井辰彦さんのつぶやきの一部を引用します。

https://twitter.com/Poetatsu/status/1098891399842324480

https://twitter.com/Poetatsu/status/1099005490690875392

https://twitter.com/Poetatsu/status/1099043445132320768

https://twitter.com/Poetatsu/status/1099119445304197121

 
 石井さんの発言は他にもありますし、他の人の反応もありますので気になる方は読みに行ってください。

 私の感想は下記です。この手の話題が百回くらい出ているのでなげやりというかザツな反応になります。すいません。
 
・問題なのは知ってる。これ以上言うのつかれた。
・「短歌研究」も悩んでいる様子はある。しかしいろいろ追いついていない。
 

 悩んでいればいいというものでもないのはわかっています。私は声をあげるのもつかれましたが、できる人はどんどんやってください。そういう声がないと変えられないという面もあるはず。
 
 「現代代表女性歌人n人作品集」の前は「現代代表女性歌人作品集」でうしろにつくものが「135歌人」「百二十三家」「七首」等々その時々で各要素の順番が違うくらいで、長い間ほぼ同じタイトルでした。
 指摘されているとおり、2011年までは「現代代表女流歌人作品集」でした。2012年から「女流」が「女性」になりました。2011年より前の時点ですでに「いまどき女流はどうなのか」という話題にはなっていたと思います。
 さっき検索してみつけた2012年当時の反応。

(岩田亨さんのツイート)
https://twitter.com/ToruIwata/status/174632066078609410


 
 それで気になるのは「いつからこんなことになったのか?」ということです。
 たぶん来年以降も話題になることもあるだろうからざっくり情報をまとめておきます。

※めんどくさい人は末尾のまとめだけ読んでください。

(データ集めの方針)

 インターネット検索できる範囲で1945年以降の「短歌研究」の3月号、5月号の特集を見てみます。

国会図書館デジタルの目次(2000年まで)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/7977147
短歌研究公式サイト(1998年以降)
http://www.tankakenkyu.co.jp/
※2017年、2018年はページができていないのでネット書店の表紙画像から入力。

 目次の入力形式が一定でないので、いろいろ情報が不足としていますが、「短歌研究」3、5月号はすべての年の所蔵があるのでだいたいのところはつかめます。
 「短歌研究」3月号と5月号の特集をまとめた表をつくりました。

 「作品特集」以外の特集が別にある場合もあります。性別で分けている特集は入れるようにしましたが、その他の特集は入れたり入れなかったり。「(特集なし)」とあっても実際の誌面では特集がある可能性があります。特集タイトルが採録されていない場合があるからです。「短歌研究+女流」で検索して特集っぽいのがあった場合は他の月でも入れています。単体記事のみの場合や古典関係など3月号特集と関連が低いものも入れませんでした。執筆者の人数は(記事タイトルにない場合)私が数えています。数えまちがいあったらすいません。
 いろいろテキトーなので、正確な情報がほしい人は自分でやってください。

(1945年から1970年)

 グレーでぬりつぶしてあるのは「女流」という分け方と関係ない特集のものです。女性が入っている作品特集はもちろんあります。というか女性がゼロのもののほうが少ないです。

 1948年3月号の「女流新人作品特輯」が3月の作品特集の最初のようです。1950年代の「女流」は「女流」「新鋭+女流」のパターンがあることがわかると思います。
 1950年代は新人賞の前身ができたりして、新人に誌面を提供することがふえる時期でもあります。昔から総合誌の書き手としてフレッシュな人というか新人というかは存在するので、新人とくくって何名か分まとめて作品特集とすることが増えたというのが正確ですね(長い)。

 3月号ではありませんが、「短歌研究」のなかでは1960年4月号「女流特集」が大きい特集です。ただし、継続的なものではなく完全にこの時だけです。

「短歌研究」1960年4月号目次(国会図書館より)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/7977147

 対談や文章もあるものの「大勢の女性歌人に作品とエッセイを書かせる」という形式がすでにあります。
 
 
 1960年代に入ると結社の推薦とか地域ごとにブロックを作って作品を出してもらっての投票?があったようです。「地方新人特集」っていうのがそれ。3月号、5月号以外もだいたいやってます。

 1968年と1969年は「n月随想」というコーナーがあり、1969年3月と5月だけ性別による分けが発生しています。
 1970年3月号の「三月随想」は「女流の歌一首鑑賞」で、執筆者は男性もいます。女性の作品をとりあげているけれど書き手の性別はわけられていないので、いわゆるいつもの3月号の特集とは違うものとして考えます。



(1971年から現在まで)

 1971年から2019年って大きな区分です。48年。前の区分(1945年から1970年)は25年でした。
 とはいえ、このようにしかわけられないのです。


(3月号まとめ)

 1971年3月号に「現代女流歌人特集作品(十五首)」(78名)が掲載されます。1960年4月号の「女流特集」をぬかすと、これまでは多くても20名の特集でした。1971年以降はハッキリと数を集める特集を継続して企画するようになります。その後、

・「代表」が入る(1976年)
・「作品集」になる(1978年)

 といった微調整が入りました。
 それから2011年まで「現代代表女流歌人作品集」なのです(1984年3月号は作品特集がなく「前田透追悼特集」だったので例外)。
 1978年から2011年までの33年間は「現代代表女流歌人作品集」でコピペしたかのように同じ特集題でした。

 2012年に「女性」という変更があって、「現代代表女性歌人作品集」になまりした。意識としはて大変革でしたが、これも微調整といえば微調整なのかもしれないです。ざっくり言って性別でわけた大人数アンソロジーを48年ほど続けていることになります。
 ほぼ同じ形式の企画をこれだけ長い期間にわたって続けているというのは、雑誌としてめずらしいかもしれないです。だからこそ変えづらいのかもしれません。


(5月号まとめ)

 1971年5月号の特集「主要結社代表歌人作品(十八首)」(73名)は男性のみではありません。女性も入っています。

 1972年5月号「現代代表歌人特集作品」から「特集題ではわからないけど男性歌人特集」という状態が固定となります。この時点で「代表」と使っていますね。1973年は特集部分の目次採録がないため不明。

 その後「主要歌人」「重要歌人」「端午作品」「現代一線作家」「代表」(←もどった)などを経て、1981年5月号の「作品特集 現代の66人 九首」から「現代のn人」というパターンが固定となります(1991年5月号「戦場から書斎へ」特集が例外)。2017年まで36年間続きました。

 2005年から2008年には、公式サイトでは男性の作品特集であることが付記されました。2009年以降に書かれていないのは、サイト構成が変わり、説明を付記できなくなったためです。

 2008年まで人数を表す単位として「家」を使っていました。2009年からは「n歌人」「n人」になっています。男性にも女性にも使っているので今回の話題とは関係ありませんが、2008年あたりに何がしかの見直しがあった痕跡のひとつかと思われます。

 2018年5月号からは男性特集であることがわかる「現代代表男性歌人100人作品集」となっています。「男」の字以外は3月号の表記と揃えたのだと思われます。
 
 

(現在)

 「現在」といっても2019年5月号が出ていないので断言はできませんが。

 現在使われているのは「現代代表■性歌人n人作品集」です。

 「現代代表」は従来の3月号を、「n人」ってところは従来の5月号の特集をふまえたものといえるでしょうか。

 どうしてこういうことになってしまったのかについて少し考えます。これまで書きませんでしたが、新年にかぎらず、季節をタイトルに入れた作品特集は昔はよくありました。それが「雛の節句」「端午の節句」ということが忘れられて、現代にまで残ってしまったのかと思います。

(感想)

 節句にあわせた作品というのはすでに忘れられていると思います。説明されればそうねーとは思うけど、あわせた作品を書いている人はほぼいないのではないですか。「季節特集であることを忘れられているから」という理由でも特集の当初の目的は忘れられていると思います。
 説明できないのだけど、私は「代表」というのもなんとなくなくていいのではないかと思っています。皆「私は代表です」って思いながら執筆をひきうけているのだろうか。

 実態としては「七人集」みたいな「選ばれた人の作品を集めました」という作品特集のの人数多いバージョンだと思います。
 140人でも150人でも「いい」歌人全員は網羅できません。他にもいろいろあるけど、今回はこれですっていうほうが豊かな気がする。
 
 アンソロジー的な企画は楽しいので続けていただきたいけれど、性別、年齢、地域で分けるのはもう意味がない気がします。
 なかなかそうはいかないとは思いますが、偏った人選でよいのでテーマを設定し、特集内容にあった人の作品を私は読みたいです。

(まとめ)

・かつては季節にあわせた作品特集のバリエーションの1つだった。

・1971年から3月号は女性、1972年5月号からは男性の作品特集で固定。

・1970年代は表記に変遷がある。

・3月号、5月号共に作品特集を組まなかった例外の年がある

・3月号「現代代表女流歌人作品集」は1978~2011年の33年間固定特集タイトル。
・5月号「現代のn人」は1981~2017年の36年間固定特集タイトル。

・5月号特集がタイトルからは男性のみとわからないのは1972年から変わらず。ただし2005~2008年は公式サイトに男性の作品特集と説明がついていた。

・2012年3月号から「現代代表女性歌人作品集」。「女流」の文字が消える。

・2018年から3月号は「現代代表女性歌人n人作品集」、5月号は「現代代表男性歌人n人作品集」となる。



(20190521の追記)

 「短歌研究」2019年5月号は「迷ったら『万葉集』、そして古典」というタイトルの改元にあわせた特集でした。
 男性歌人特集は6月号にずれこみました。「現代代表男性歌人130人作品集」というタイトルです。端午の節句にあわせた5月号ではなく、5月発売号にしたということでしょうか。



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