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里山での日常(仮タイトル)十

小田和正22歳 その五

 昨日から、野菜販売所の売り場に立つことになった。なっちゃんは、事務所の方に引っ込みパソコンと格闘している。オーナーが買いそろえたパソコンと、プリンターそして、デジタルカメラ。それもプリンターは、A1サイズまで印刷できるタイプだった。これらを使って、ポップを作るという。パソコン自体は、高校でいじっていたらしいので、問題ないみたいだが、ポップを作るソフトは初めてらしい。

 ここ数日、一日数時間、パソコンの前で眉間に皺を寄せてポップの実用書を眺めているなっちゃんを見るのが、当たり前になりつつある。

(打ち込むものを見つけたみたいだなあ)
 奥のなっちゃんを見ながら嘆息した。

(自分も早く打ち込むものを見つけないと……)
 和正はそう思った。

「よう!慣れたかい。売れ行きの方はどう?」
 田中のおっちゃんだ。

「だいぶ慣れました。朝の忙しさを過ぎたので、ちょっと息がつけたところです。売上はまあまあかな」

 笑って答えを返す。いつも田中さんの奥さんにおかずなどをお裾分けしてもらっている。田中さんは米の他、トマトやなすといった野菜も栽培されている。

 この辺は、やはり農家の人たちが多いせいか、朝のうちに野菜を買っていく人が多い。自分家で採れた野菜を販売所に置いて、作っていない野菜を買っていくのが通例になっている。午後以降に訪れるのは、たいてい街中の人たちだ。

 朝、買いに来る人たちの流れがちょうど途切れたところで、事務所の方を見ながらぼんやりしていたところで声をかけられた。

「いつも、お裾分けを頂いてありがとうございます。非常に助かっています」

「母ちゃんは、人の世話をするのが好きだから、なんとも思ってないよ。それより、うちの味付けだと若いあんたたちには物足りないんじゃないの」

「いえ、そんなことはありません。本当に助かっています。」
 料理ができない僕にとって、おばちゃんのお総菜は本当に助かっている。

「小田くんは、パソコンとやらをいじれるの?」
 田中さんが話をかえてきた。

「えっ!一応ワープロとか表計算ソフトぐらいならいじれますけど。」
 と僕が答えると、田中さんは話を続けた。

「今まで、米や野菜を作る過程をノートにつけてきたんだけど、冊数がだいぶ増えてしまってねえ、整理しきれなくなっちゃった。何とかならないものかと思ってなあ。パソコンとかで何とかなるものなのか、知っていたら教えて欲しいと思ってね」

「なるほど、一度、そのノートを見せてもらえますか?そうすれば何ができるか、わかるような気がするんですけど」
 僕が言うと、田中さんはほっとした表情を浮かべた。
「今度、家に来てくれれば見せるから寄ってくれるかい。夕飯ごちそうするから」
「ありがとうございます。よろこんで、おじゃまします。明日の夜でもいいですか」
と返答すると、
「それじゃ、明日の晩、待っているから」
といって、田中さんは販売所を後にした。

つづく

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