超短編小説1

 まったく、筆が進まない、もう、二日もこうして机に座りながら、書き出せないでいる。読者からは、最近マンネリ気味じゃないかと指摘を受けている。

 まったく、その通りだ。展開に新鮮みがない。書いている方が、そう思っているのだから、読者がそう感じるのもしかたがない。

 少年漫画雑誌に連載を掲載して、はや3年が経とうとしている。

 最初のうちは、あらかじめ考えていた展開がスムーズに進み、書いている自分にもわくわく感があった。ところが、エピソード1が終わり、エピソード2に入った頃から、内容がおもしろくなくなってきた。つじつま合わせが多くなり、展開にスピード感がなくなった。どうしたらよいか、悩む日が続く。

 コーヒーでも入れて、頭をリフレッシュしよう。そう思い、台所でお湯をわかし、ゆっくりと豆をひく。

 コーヒー豆の香りが部屋の中に広がっていく。入れたコーヒーを一口飲むと、思わずため息がでる。

 ふと、新人賞授賞式の日のことが頭に浮かんだ。そういえば、新人賞授賞式の日、お礼を言いにいったとき、先生がおっしゃった。

「おめでとう。これからが勝負よ。そうね、三年間、がむしゃらに書きなさい。そうしたら、あなたも一人前になれるわよ。才能はもともとあるんだから。」

「ありがとうございます。一生懸命頑張ります」

 あのときは、何も考えないで先生の言葉を受け止めていた。でも、5年経って、少年漫画雑誌での連載も順調に流れだした今、ようやく先生がおしゃった言葉のほんとうの意味がわかった。

 そうか、過去を振り返ってばかりいると前に進めなくなるんだ。連載に行き詰まり、作品内容を見直して、次の展開をどうしようか。悩み出したとたんに、次のアイデアが浮ばなくなった。

 考えてみれば、今までの展開などすべて頭の中に入っている。読み直すこと自体、現実から逃げているのだ。

 主人公がどうしたいのか、周りはどう動こうとしているのか、作品の今を考えるべきだ。

 そのためには、がむしゃらに考えなければならい、がむしゃらに調べなければならない。

 もともと、アイディアなんてものは、浮かびでてくるものなんかじゃない。
 登場人物の行動を予測し、それに必要な資料を調べ上げることでしか、先は書けない。そのことに、今更ながら先生の言葉が、気づかせてくれた。

 そう、迷っている時間なんてないんだ。がむしゃらに前へ進むだけだ。

「おはようございます」
 アシスタントの裕美ちゃんが、仕事部屋に入ってくる。
「先生、また徹夜したんですか?体によくないですよ」
「なんか煮詰まっちゃって、でももう大丈夫、進む方向性は見つけたから」

 徹夜明けで、妙にテンションが上がっているわたしは、裕美ちゃんにそう答えた。

「今度の連載内容、もう一度練り直すから、編集部に一週間休載したいって連絡入れてくれる」

 そう言って、わたしは冷めたコーヒーを一口すすった。さあ、仕切り直しだ。

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