放射

 先日、寒くなってきたなぁと思って、何気なく朝の天気予報を見ていたら、放射冷却という言葉が耳に入ってきた。雲ひとつ無い天気がいい冬の日に起きる、朝方気温が下がる現象のことだ。

 冬になると空気が澄んでくる。一昨日も奥多摩へ向かう電車から雪化粧した富士山がきれいに見えた。朝通勤する列車から富士山が見え出すともう冬はそこまで来ていると感じてしまう。

 空気が澄んで、雲ひとつ無い星空を仰げる夜空だと、地上から放射された熱を遮るものがなにもないため、熱はどんどん上へと登っていく。そのため、地上の気温がぐーんと冷える。これが放射冷却だ。

 雲や湿気などがあれば、地上から放射された熱は、一旦そこで蓄えられ、その後、地上にめがけて再度、熱が放射される。このように地球が放った熱を再度地球上に戻すことを繰り返すことで、地球の温度が保たれている。

 一般的に『放射』というと、どういうイメージだろうか。「放射状に広がる」はまだいいとして、「放射能」「放射線」といった使われ方は、あまりいいイメージではないのかもしれない。

 ちなみに放射能とは、不安定な原子が放射線を出して崩壊して別の原子になっていく過程を表す言葉で、放射線は放射能で放たれるエネルギーが高い粒子と電磁波の総称だ。粒子にあたるのが、アルファー線とベータ線で、電磁波がガンマ線とX線となる。このようにあるものからエネルギーを持ったものや光(電磁波)が出てくることを『放射』という。

 いずれも自然現象だが、原子爆弾や原子力発電所の事故などでも発生するので、人為的なものというイメージが定着いるような気がする。自然現象であろうと人為的事故だろうと原子が崩壊して行く過程で放射されるエネルギーなので、粒子も電磁波も高いエネルギーを持っている。かつ、コントロールがしづらい。それが、どんなにやっかいかは福島原発を見ればわかるだろう。

 人も熱を赤外線として放射している。通常は、人間の体温よりも気温の方が低い。また、熱は高いところから低いところへ移動する性質がある。そのため、気温よりも高い体温の人間は、空気中へ熱を赤外線として放出する。つまり、赤外線も放射線の一種だ。

 赤外線はご存じのように目では見えない。しかし、感じることはできる。ラッシュアワーの電車の中など、人がごった返しているところでは、それぞれの人が放射した赤外線で空気が温まり、暖房をしていないのに暖かくなる。熱気というやつだ。人と人が直に触れ合うことによって伝わるのではなく、人が放射した赤外線で列車内の空気が温まり、温かいと感じるのだ。
 このように、放射という現象は、身近で普通に起きている現象でもある。

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