畑

里山の日常(仮タイトル)六

小田和正22歳 その三

「もう一つは、独立したコミュニティーを作りたいんだ。ここに色々な職業を持つ人たちに募ってもらう。ただし、同じ職業があまりダブらないようにする。たとえば、商店街のようにそれぞれの店が一つづつあるような感じ」

「みんなを診てくれる町医者がいて、いざというときは、県立病院に搬送できるシステムを利用する。農業に必要な道具を作る店があり、お茶を飲む湯飲みやご飯を食べる茶碗をつくる工房がある。なるべく時給自立できるだけの店を揃えるけど、それぞれの店は重ならない。医者も一軒、工房も一軒、木工所も一軒、鍛冶屋も一軒で重ならない。そんなコミュニティーを作りたい。当然、ここだけで商売していたのでは食べていけない。だから、余った時間は、インターネットで販売するものを作ってもいいし、各農家の手伝いをして収入を得てもいい。そんな緩いつながりのあるコミュニティにする。自分たちだけではどうしても作れないものや足りないものは、他から購入し道の駅で住民向けに販売すればいい。もちろん、インターネットで買ってもかまわない。」

「ちょっと、いいですか。」
 なっちゃんと呼ばれた定員さんがオーナーに声をかける。
「なにっ?」
「なんで、一軒づつなんですか?」
「二軒以上あると、どうしてもそこで競争が生まれてしまうだろう。そうすると、価格競争してどちらかが残るまでいらない争いをやってしまう」

「でも、それが資本主義でしょ」
思わずいってしまう。
「うん、その通り。でももう少し、知恵を使ってもいいと思うんだ。この狭い地区でつぶし合うような競争をして利益を得るよりも、棲み分けをしてそれぞれが食べていける方法を見つけていく。その方が、人間的なような気がする。」
なんとなく、なっちゃんと目を合わせて互いに首を傾げる。

「彼岸花って知ってる?」
 名前は知っているが、花は頭に浮かばない。
「秋に咲く花で、咲いているときは、まったく葉がないんだ。別名の一つに『ハミズハナミズ』というのがある。これは『葉は花を見ず、花は葉を見ず』からきているらしい。実は、彼岸花は、花が枯れた後、葉をつけ、植物があまり利用しない冬の日差しを独り占めして光合成し栄養分を蓄える。そして、花の十何倍もの球根を土の中で作り、次の世代へとつながっていく。」
「あっ、そうか!」
 なっちゃんが声を上げる。
「他の植物と違って、彼岸花は冬の太陽を独占して悠々自適で次の世代を残していく。彼岸花のように工夫をすれば、横並びの競争をしなくてもいいってことですね」
「そうだよ。なっちゃん。それぞれの職業の個性を生かして共存していく。それを目指しているんだ」

 働く環境を多様化して、この地域での横並びの競争を防ぐというのはわかるが、互いに切磋琢磨しないで仕事の質というかレベルを維持していけるのだろうか?オーナーに質問してみる。

「そこでお客様である地域の人たちからの意見が重要になってくる。地域の人たちは、どうしても使えないものまで、この地域から買う必要はない。逆に、地域の人たちに要望事項を積極的に聞くことで、独自性のある製品ができあがってこの区域ならではの特徴を生み出せるんじゃないだろうか」

「職業が重ならないという制限の他は、何の制約も出さない。店を登録制にする以外は、ノータッチ。だから、どこかの国のように誰かが利益を牛耳ることもない。それぞれが、別々の環境でここで一緒に住んでいるそんなコミュニティーにしたいんだ」
「もともとNPOだから、儲けまでは出せないんだ。だけど、維持できるだけの利益は出さないといけない」

 なんかだまされているような気もするが、一理あるようにも思える。なっちゃんも真剣に考えているようだ。
「そして、最後のひとつ、美術館を作りたいんだ。若い人たちが集まれるところ。芸術を志す若い人たちがこの地域に根付いて美術館で作品を発表する。絵や写真に限らず芸術性があるものなら何でも受け入れるそんな美術館を」
「もちろん、音楽をやる人も集まれるようにしたいな。楽器をつくる人がいてもいいね」

つづく

これまでの話は、目次からご覧ください。


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