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大学時代の思い出(18)

 何度目かの水窪ダムでの練習で、お前も走ってみろと言われた。スタートと直後にギアをセカンドに入れ、後は、アクセルをベタ踏みにして走る。1000CCカーという非力な車なため、アクセルコントロールするほど馬力がない。そのままドリフトを繰り返してゴールにたどり着いた。非力な車なのに、なぜか、その時走った同じ2年生の中で2番目のタイムだった。

 間借りに帰って、Tの部屋で飲み会になった。練習の話で盛り上がり、自動車部に入れと誘われた。この時点でレースをしたいとは思っていなかったので、入部を渋っていると、TとS、二人がかりで、2階の窓から外へ吊された。酔っ払いに足をつかまれ頭を下にして宙ぶらりんの状態になっている。入部しないと落とすという。酔っ払いがいつ手を離しもおかしくない。あわてて入部すると答え、事なきを得た。

 ある日、いつものように水窪ダムにダートトライアルの練習にいった帰り道、ヒーターを効かしているはずなのになぜか、窓ガラスが曇り始めた。心なしか車内が寒いような気がする。そう思っている内に、フロントガラスに付着していた水滴がみるみる凍り始め、吐く息は白く、その上、視界が悪くなっていく。井上陽水の「氷の世界」そのものだ。

 耐えきれず車を一度止めて、ボンネットを開け、エンジン内部を確認する。すると、ある部品から湯気が上がっている。オルタネーター。エンジンの駆動を利用して発電する部品で、発電した電気はバッテリーに蓄えられる。その部品が焼けてしまったのだ。路上では、どうしようもないので、だましながらゆっくりと走って間借りに帰った。

 学生は、基本的に貧乏だ。だから、自分ではどうしようもなくて、どうしても修理工場へ持っていかなければ、車を修理できない場合のみ修理工場に持ち込む。普段は、自動車部の車庫に車を入れるか、バイト先のガソリンスタンドに持ち込んで自分で修理する。今のように電子制御などなかった時代だ。エンジン周りといってもそう複雑ではなかった。

 ただし、問題がひとつある。交換する部品の調達だ。こればかしは、どこかから手に入れるしかないのだ。そこで、自動車部の場合、自動車廃棄業者へいって、そこに自分と同じ車あるかを日頃から調べ、あった場合は、その場所を覚えておく。いざ、部品が必要になったときは、業者に話を通して、保管されている廃棄前の車から部品を自分たちで取り出して、自分の車につける。うまくいけば、タダで分けてもらえることもあるし、値段を払うとしても新品の部品よりはかなり安く上がる。

 この時も、以前見つけておいた福島にある廃棄業者から部品をただで、分けてもらい付け替えてみた。ところが、取ってきた部品もやはりいかれていて、残念ながら使い物にならなかった。仕方ないので、新品のオルタネーターを修理工場で発注し、自分で付け替えて事なきを得た。

つづく

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