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脳のしくみから学習を考えてみる

 NHKスペシャル取材班「人体ミクロの大冒険」(角川書店)を読んで、おぼろげながら脳のしくみを理解し、そこから見えてくる学習方法について考えてみたいと思います。とはいっても、たいしたことが書いてあるわけではありません。結局はよくある答えとなります。

 脳にある神経細胞が、いちばん高密度で繋がっているのは、生まれたての赤ちゃんのときだそうです。ちょっとした刺激にも反応でき、微妙な発音の違いをも聞き分ける能力を持っているらしい。しかし、10ヶ月ほど経つと微妙な発音の違いを聞き分けられる能力が使えなくなります。本では、ヒンディー語の発音に日本人には聞き取れない発音の違う「た」が2つあり、生後10ヶ月前の赤ちゃんはヒンディー語を母国語としていない赤ちゃんでもこの違いを聞き分けられるのに、10ヶ月を過ぎると聞き分けられなくなるという例が示されていました。

 そう、高密度のネットワークは、やがて次々と繋がりが途切れ、複雑さを失っていくのです。言い方をかえると、生きていくために必要な繋がりを選択して、不必要になるだろう部分をどんどん切り捨てていきます。

 なぜ、こんなことをするのかというと、神経細胞は、他の細胞のように新陳代謝で入れ替わる細胞とは違い、一生使いつづける数少ない細胞だからです。ずっと高密度のままネットワークを維持して、フル回転をずっとつづけているとやがて神経細胞が死滅してしまいます。それは、ヒトの死を意味します。そんな状態に陥られないように脳は積極的に脳の活動を抑制する方向に進むのです。

 脳が非常に活発に動いている時期を臨界期といいます。臨界期は、高度な学習能力を発揮する時期です。しかし、臨界期が過ぎるとこの高度な学習能力は発揮できなくなります。生後10ヶ月後の赤ちゃんは聴力にかかわる臨界期を終えたことになります。臨界期は、視覚や聴力、そして味覚など情報を察知する能力から始まります。

 しかし、臨界期を終えた脳の部分を利用して複雑な作業を制御する部分の臨界期は、比較的遅く始まり、20過ぎまで続きます。具体的には前頭前野がその部分にあたります。

 臨界期がある理由は、大きく神経細胞を変化させて、生きていく環境に理想的な神経回路を構築するためです。いったん神経回路が構築されれば、可塑性を抑え、エネルギーを要するプロセスに制限をかけます。そうすることで脳は損傷から自らを守るのです。

 さて、ここまでの話だと、20過ぎでヒトは学ぶ能力を失うかのようですが、そんなことはありません。臨界期を終えたあとでも臨界期ほど急激ではありませんがネットワークの再構築は続いていきます。

 ヒトが何か能力を身に着けようと思ったとき、繰り返し練習をします。例えば、楽器を弾けるようになりたいと思ったら、何度も何度も練習をして弾けるようになるまで繰り返します。

 このとき、脳では同時にいろいろな部分が活動します。音を聞くための聴覚、楽器の抑える部分を視覚で確認し、そして、指や腕を運動野で動かします。どのタイミングでどう動かしたら正しい音がでるのかをおそらく前頭前野で判断しているものと思われます。

 そして、脳では、同時にミエリン化という作業がおこなわれています。ミエリン化は情報の伝達スピードを飛躍的に速くします。神経細胞の軸索という部分にミエリン鞘という電線なら絶縁物質に当たるものを巻きつけます。そうすると飛躍的に伝達スピードが向上します。

   繰り返しおこなうことで、ミエリン化が何度もおこり、脳の神経回路が強化され、的確な動作と正しい音が出せるようになります。最初はたどたどしい動きしかできなかった動作が洗練されていきます。

 脳の働きからみると、学習とは何度も繰り返し行うものなのです。失敗してもいいのです。次にどうすればいいかを考えてまたトライすることが重要なのです。

 作家の伊集院静さんが、「作家の条件とは?」という質問に、「毎日書くことです。とにかく書くことです」と答えていました。

 何もせずに突然、アイディアが浮かぶというのは天才でない限り、いや天才であってもほとんど無いのではないでしょうか。毎日繰り返し作業を行う中で、ひらめきやアイディアがその作業の隙間から生まれてくるのかもしれません。

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