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大学時代の思い出(7)

  今回は、懲りない面々。寮に入寮後、同級で知り合った面々を紹介します。それまで、東京の郊外しか知らなかった僕にとって、日本国中には変わった人たちがたくさんいることを教えてくれた方々です。

 まず、空手が得意な一升瓶の似合う医学部一年生。医学部といえば、みんな勉強ができる人たちの集まりなのだが、どう見ても医学部生に見えなかったのが彼だった。頭は角刈り、空手着を着ているわけではないのに、着ているようにしか見えない体格。彼の部屋に遊びに行くと、必ず一升瓶が出てきて、朝まで飲み通すことになる。まるでおやじである。当然のことながら次の日は二日酔いで使い物にならない状態になるので、彼の部屋を訪れるのは週末と決まっていた。

 寮の飲み会で知り合った彼は、確か八王子出身だったと思う。実家が近いというだけで付き合っていたような気がする。今思い返しても、夜通し飲むほど話題になる話があったようには思えないのだが……。

 医学部生といえば、もう一人変わった奴がいた。確か一階だった彼の部屋を訪れたときのことだ。ベッドの上に立ち、部屋の照明にかけた紐の先を輪っかにした彼がそれを見ながら何事か考えている様子だった。

 「何しているの?」と聞くと、「自殺の仕方を考えている」との返答。「おいおい!ふっぞうなこと考えるなよ」といったものの、本人は自殺の仕方を考えているだけで本当に自殺をしたいわけではないらしい。きょとんとした顔で、「コーヒーでも飲む」といって、持っていた紐を置いた。いやはや頭のいい奴は何を考えているのかわからないなあと心の中で思った。

 彼の話では、彼は受験勉強の間、48時間勉強して8時間寝るという生活をずっと続けていたらしい。今でも48時間起きている習慣は続けていると言っていた。確か同学年だが、入学するまで4~5年かかったらしい。

 この二人が、例え順調に医者になったとしても絶対に世話にはならない。と、そのときは思ったものだ。

 四国出身で、ナイフが大好きな危ない工学部生がいた。何がきっかけだったか覚えていないのだが、なぜか彼にとても信頼されていて、いろいろなことを相談された。

 彼の趣味がまた変わっていた。英語の辞書を引くのではなく、辞書を一ページ目から全て読み、覚えたらそのページを破いて食べるというものだった。ナイフはそのために持っていると…、本人はそう主張していた。

 そんな彼が、ある日好きな人ができたと相談に来た。ただし、好きになったのは女じゃないとも言った。「えっ!男ってこと」と聞き返したとき、彼の表情が苦悩に満ちていることに初めて気づいた。

 話を聞いてみると、この寮に一緒に住んでいる理学部の一年生を好きになったらしい。ただ、好きになったその学生は、どう見ても男に見えないと言う。格好は、男の服装をしているが、どう見てもあれは女に見える。「話しかけたのか」と聞くとまだたとの返答が返ってきた。そして、僕に彼が男なのか女なのか調べて欲しいと彼に哀願された。

 その時点で、彼が好きになった学生を僕は知らなかった。もちろん、安請け合いはできないので、少し時間をくれといってその場は何とかごまかした。ただ、彼があまりに真剣なので、うかつなことはできないあとは思った。

 次の日から、彼が好きになった学生に挨拶して、彼と話せる環境をつくると共に、時たま、彼の行動を観察することになった。

 秋口に寮祭があり、恒例だという女装大会が行われた。この大会で、優勝したのは、理学部の4年生の先輩で、普段はどう見ても男としか思えない人が、女装すると結構可愛い女性に変わっていて非常に驚いた。そして、準優勝したのが話題の彼だった。こちらは、女性というよりも中性に近い雰囲気で、江口寿史の「ストップ!! ひばりくん」のひばりくんにそっくりだった。

 最後まで本人には聞けなかったが、僕の想像の中ではおそらく彼は男でも女でもなかったのだと思う。彼が男子トイレの小便器に向かっている姿を誰も見ことがなかった。共同の風呂が寮にはあるのだが、そこに入ってくることも無かった。

 僕は、事実だけをナイフ好きの工学部生に伝えたが、男女の判断に関してはわからないと答えた。彼を好きになったナイフ好きの工学部生は、最後まで彼に打ち明けることはできなかったみたいだ。そうこうしているうちに、工学部生は寮を出て、その後学校にも来なくなってしまった。

 僕も工学部生だったので、この寮には、1年しか居られなかった。工学部のある米沢に引っ越すことになる。米沢にも寮はあったが、間借りと呼ばれた台所・トイレ・風呂が共同のアパートのようなところに米沢では住むことにした。そこは、家賃が7000円で、寮よりも安かった。

 クロとトラ猫とは別れることになったが、二匹とも僕の心の中にずっと住み着くことになる。

つづく

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