里山の日常(仮タイトル)七
今回で、一区切りとなります。次の展開を考えるのに少し時間を頂くかもしれません。今後ともよろしくお願い致します。
小田和正22歳 その四
狐につままれたような顔をしている僕に向かって、話を続ける。
「そこで、募集のことなんだけど、まずは、今の話を聞いて君が何をしたいかなんだ。農家を手伝うのもいいし、君が持っている経験をいかして何か仕事を立ち上げてもいい。白紙の状態なら、ここを手伝いながら、何か自分のしたいことを見つけてもいい。」
そう言われて、僕は戸惑った。
大学こそ卒業したが、文系だから社会に出て、すぐに役立つようなスキルは身についていない。経理や事務仕事ならパソコンを扱えるので、何んとかなるかもしれない。しかし、それは自分が望んでいる仕事ではない。
「土に触れる仕事がしたい」
あの時、そう思った。
そう考えると農家を手伝って、農法を学ぶのもいい。でも、ここで決めてしまっていいものなのか、正直言って悩んでしまう。
「正直言って、今聞いたばかりなので、自分なりにどうするかをもう一度考えてから答えてもいいですか。」
「もちろん、今即決する必要はないと思うよ。もし、働きながら考えてみたいというなら、今なっちゃんが住んでいるアパートが空いているから、そこに住んで、ここを手伝いながら考えるんでもいい。自宅で考えたいなら、それでもいいよ」
僕が悩んでいると、横に座っているなっちゃんが微笑みながら言った。
「けっこう、ここの暮らしもいいもんですよ!野菜はもちろんお米だって、みんなからのお裾分けでもらえるから、生活にかかるお金はかなり抑えられるの。おかずなんかも、近くの農家の人たちがつくりすぎちゃったからって、持ってきてくれることもけっこうあるし!」
「えっ、てっいうことは、食費にほとんどお金がかからないっていうこと?」
オーナーが補足説明をする。
「僕も一人もんなんだが、みんなに支えられて生きている。この辺は田舎だからけっこうお裾分けがあるんだ。その代わり、力仕事が必要なときは、われわれがお返しのつもりで手伝う。そうやって支え合っているんだ」
「そうなんですか」
「今のところ、若者が少なすぎてお返しがちょっと足りていないんだけどね」
とオーナーが苦笑いしながらなっちゃんを見た。
「ほんとほんと。ぜひ仲間になって下さい」
なっちゃんが頭を下げながら誘ってくれた。
ここに居着いてみようかな……。
「わかりました。ここで働きながら考えてみます。お世話になります。」
僕が返答すると、オーナーは嬉しそうに何度もうなずき、最後になっちゃんと握手した。もしかして、二人してグル?
「オーナーの話、私も初めて聞いたんですよ。あっ、自己紹介していませんでしたよね。わたし、若葉なつといいます。よろしくね」
といいながら、手を差しのべてきた。
「初めまして、小田和正といいます。よろしくお願いします!」
握りかえしながら、僕も自己紹介した。
つづく
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