東女美女烈伝.10 山下実優

背負いし求道者

山下実優は美しいんだ。


東洋の巨人ジャイアント馬場はチャンピオンとして世界中をサーキットするという目標を持っていた。NWA王座を腰に巻くという偉業は達成したものの、「目標」を達成することはできなかった。
晩年、全日本プロレスへやってきた高山善廣を寵愛し、のちに「帝王」と呼ばれるまでに育て上げたのは、自身が描いていたプロレスラーとしての目標であり理想像を高山に託していたからではないだろうか。
その理想像を現代で体現するレスラーが東女にいる。世界を股にかけて活躍する求道者、山下実優だ。それが彼女のレスラーとしての理想像かどうかはわからないが、求道者として世界を転戦して自分を高める姿を見ていると私はそう思えてならない。
同じく求道者として世界を股にかける女帝里村明衣子から、陰に陽に影響を受け彼女は世界中を飛び回る。世界中で防衛戦を重ね、世界中から挑戦者が来日する。彼女は最強のプロモーターでもある。様々な意味で彼女は東女を背負っている。

10年ほど前、あるメジャー団体のプロレスラーと酒席を共にすることがあった。
月並みだが、

「なぜプロレスラーになったのですか。」

と尋ねた。
彼は、

「最強の格闘技だと思ったから。」

と古傷の肘をさすりながら答えた。
そう、プロレスはエンターテイメント、格闘芸術と言われようがなんだろうが、某閃光魔術師が自身の試合を「作品」と形容しようが、プロレスには最低限の暴力性という狂気がなければいけないと私は思っている。その狂気の影響か前述のレスラーは肘が常に痺れているそうだ。滲み出る狂気。
山下実優の試合にはそれがある。なくしちゃいけないもの。温故知新。
人間が人生で成し遂げられること、成し遂げられないこと。様々あるが、彼女は大会の締めにいつもこう言う。

「限界、自分で決めんなよ。」

彼女が己が限界を超え理想に辿り着いた時、我々にどんな景色を見せてくれるのか。これから何をどう成し遂げていくのか。
プロレスファンよ、山下実優から目を離すなよ。

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