東女美女烈伝.32 乃蒼ヒカリ


闇は暗ければ暗いほど光は強く射す

乃蒼ヒカリは美しいんだ。

彼女のSNSの固定ポストは学生時代に「レスラーの強さ」を感じたという大谷晋二郎とプロになってからリング上でぶつかった時のものになっている。

おそらく。他の選手があえて口にしないだけかもしれないが、彼女は団体イチのプロレス好き。
プロレスラーになる前の彼女。平日はバイト詰め詰め。休日は桜の開花が5月18日を記録したこともある極寒の故郷旭川から東京までデスマッチを観に行っていたという筋金者。

試合前に歌って踊ってからのブリザード時々デスマッチ。
特典会で唯一(ココは強調したい)、帰り際に「気をつけて帰ってね〜。」と人間国宝に推挙したくなる日本一の笑顔で送り出してくれる。
こんなオヂサンでも会いに行ける美女。

東女ではなかば禁忌とも思えてしまうスープレックス。
彼女はそれはそれは美しく優雅に吹雪の弧を描く。元帰宅部とは思えない一級品のブリッジ。帰宅部なのに真面目に道場へ通っているのだろうという美しき矛盾。なによりもプロレスが好きな証明。
彼女を愛するファンが読んだら背中を刺されてしまいそうだが、彼女は歌って踊る自分を演じることより、いちプロレスラーでありたいのではないだろうか。背中の傷はプロレスへのピュアな気持ちの証明。
黎明期UFCを彩った怪人キモのように死ぬまでプロレスを背負う覚悟を示した十字架なのではないだろうか。
作画を担当してくれたアラーキーミネ先生は、

「とにかく画作りが上手い。もはや必殺技。」

と評した。
「画作り」と言うと、天才武藤敬司が常に意識をしていた彼のプロレスにおいて重要な概念。
美女である以上に、プロレスをずっと好きだからこそ醸成されたそういう特殊なスキルこそ、彼女が国内外で圧倒的な支持を受ける所以ではなかろうか。単なる美女レスラーではないのだ。
純然たる名レスラー。
ああ、もっと彼女の「作品」が見たい。

2023年末。彼女は突如としてマット界から姿を消した。
東女史上最高傑作との誉れ高きタッグチームふりーWiFiのパートナー角田奈穂とともに巻いた悲願のプリンセスタッグ王座は返上。
角田奈穂は次なる道を歩むことを決断しプロレスも芝居も引退を発表。もう2度と奇跡のスーパータッグを見ることはない。

乃蒼ヒカリは、ひとりいまだに闇の中を彷徨っているのだろうか。
もっと素晴らしい自分を探している最中なのだろうか。

プロレスの教科書177ページからインスパイア。

『本当に強い女とは勝ち続ける女のことを言うのではない!本当に強い女というのは何度倒されても何度でも立ち上がる女のことをいうんだ!』 

闇は暗ければ暗いほどヒカリは強く射す。
その射す先に東京女子プロレスがあるのならこれほど嬉しいことはないが、そんなことにこだわる必要はない。どこにもない。
酸いも甘いも過去は過去。変えることはできないのだから気にすることはない。一度きりの人生。

乃蒼ヒカリはプロレスラーになれたのだから。
これからのあなたは何にだってなれるよ。

ありがとうございました。
またいつかどこかで。


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