わたしの周りのNudgeたち#20230202

先日、以前わたしの眼科クリニックに勤務していたスタッフの一人と食事をしました。彼との食事は3年ぶり。お互い近況を話しつつ、話題はやはり、拙著『スマホ失明』に集中します。
 
お酒も入り、口が滑らかになった彼は、「急性内斜視になる子は、裸眼で近業してますよね!」と言いました。ということで今日のわたしの周りのNudgeは、
 
Nudge#001:スマホは眼鏡をかけて見る
 
です。
 
中等度以上の近視がある場合、メガネを持っていない、あるいは持っていても使わないヒトが急性内斜視になりやすいことは過去に報告があります*。
 
わたしたちが眼鏡を処方する際に、保護者の方に必ず質問されることがあります。
「(眼鏡は)授業中だけかければ良いですか?」と。
 
『スマホ失明』にも書きましたが、保護者の方は「眼鏡をかけると近視が進む」という都市伝説を信じています。しかしこれは利用可能性ヒューリスティック(拙著『スマホ失明』 p154参照)。
 
子どものスマホの使い方は本能的です。中等度以上の近視の子どもの場合、「眼鏡無し」のほうがスマホ・ゲームの画面は良く見えます。そのため子どもは眼鏡を外してスマホ・ゲームに熱中します。熱中して来れば、子どもたちの目は、ますますスマホの画面に近づきます。
 
子どもたちがスマホ・ゲームに熱中しているときの目とスマホの距離を観察してみて下さい。大人では考えられないくらいの近い距離でスマホの画面に熱中しているはずです。
 
中等度以上の近視を持つ子どもが、眼鏡なしで近業(この場合スマホ・ゲーム)を行えば、急性スマホ内斜視のリスクは上がることは、先に書きました。そこで今回のNudgeの登場です。
 
眼鏡をかけた状態でスマホの画面を近づけると、やがて画面にピントが合わなくなり、見えなくなるはずです。大人はよく経験する現象ですが、子どもでも同じです。
 
眼鏡をかけた状態でスマホ・ゲームをすれば、目とスマホの画面がどんどん近づくことはありません。眼鏡をかけた状態でスマホの画面が近づけば、ピントが合わずに、自然と目とスマホの距離を離すようになります。
 
もちろん、子どもにも知恵があります。スマホの画面を近づけることでピントが合わなくなれば、眼鏡を外すという手段に出ます。こうなると元の木阿弥。眼鏡をかけない状態でスマホ・ゲームに熱中するという状態に逆戻りします。
 
こうなると次のNudgeを繰り出す必要があります。眼鏡がダメなら、コンタクトレンズです。
 
眼鏡の場合は取り外しが簡単ですが、コンタクトレンズの場合、取り外しは面倒です。コンタクトレンズでも1日使い捨てタイプだと、いちど外してしまうと再利用ができません。コストが発生します。眼鏡をはずしてスマホ・ゲームをする子どもへの有効な次のNudgeは「コンタクトレンズをしたままスマホを見る」です。
 
もちろん、こんなことをしなくても済むように、スマホの画面設定で「スクリーンタイム」の制限機能使うという方法もあります。しかし今の子どもたちのデジタルデバイスに対する知識は、親のそれを超えています。スクリーンタイムの制限解除など「ちょろい」ものです。
 
今回のNudgeの究極の進化型は、やはり「オルソケラトロジー」です。デフォルト設定型のNudgeである、「Nudge#001:スマホは眼鏡をかけて見る」の進化形は、「スマホするなら、オルソケラトロジーを使いながらする」ということになります。
 
 
*Lee, HS, et al. BMC Ophthalmology, 2016

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