葉桜の季節にあなたを想う

あなたの住んでいた地は、葉桜が生い茂っているのでしょうか。この地は葉桜どころか桜の「さ」の字も見当たらず、今朝、木蓮の小さなつぼみを見かけました。

早いもので20年が経ちました。


いまだに書店に行けば、新刊が並んでいないかチェックしてしまいます。
あなたのいない世界がいまだに信じられず、長い休暇を取っているだけで、そろそろ新刊が並ぶのではと。わかってはいても、万が一の期待を捨てきれずにいる私は愚かでしょうか。

あなたと出会ったのは現国の教科書に載っていた一篇の物語でした。



高校進学を失敗した私にとって、進学は夢や希望にあふれたキラキラした前向きなものではなく、仕方なくそこにいくしなかく、むしろ、うしろむきなものでした。自業自得ではあるんですけどね。

教科書や制服を買い揃え、現実だけは着々とせまってくる中、見るともなしに見ていた現国の教科書。目に止まったあなたの物語。

ほおずきの花束を抱えた彼女の話が、ささくれだった私の心に響いたのです。


荒れた学校ではないけれど、ガラのよろしくないその学校は、馴染むのに時間がかかる場所でした。思い返しても馴染んでたとは思えないのですが、バラ色ではないけれどそれなりにカラフルな高校生活でした。

そのカラフルな高校生活の中の何色かはあなたの物語です。
明け方の空、眩しいぐらいに黄色の表紙のあなたの物語が、私の「転ばぬ先の杖」でした。

数年後、社会人になり勤め先が有り体に言えばブラックな企業でした。上司の目を盗んで、2畳にも満たない休憩室でタバコを片手にガラケーであなたにホームページを見ては一時の癒しを得ていたのは、懐かしい思い出です。

キリ番ゲッターというしょうもない遊びを、ホームページの管理人であるあなたが嬉々として、むしろ率先して楽しんでいました。おそらくパソコンの前でF5ボタンを押していたのでしょう。同時刻に画面に向き合ってるあなたと私。確かにあなたは存在しているという実感した瞬間でした。



免許取り立ての私が父から借りた車は、はからずも「ねずみ色のプジョー」でした。あなたが思い描いた型式とは異なるでしょうけれど、良き相棒で北に南に東へ西へ。ケイパの白いスニーカーを積むことも、ケーキとシャンパンを積んで埠頭に行くこともなかったですけど、ハンドルを握るたびニヤリとしたものです。



あなたは、破天荒というのは言葉が過ぎるかもしれませんが、私生活は博打打ちで、大酒飲みで、笑って怒って喜んで凹んで、いたってふつーの人でした。



あなたが何を思い、この世と別れを告げたのか。最後に言葉が「ルル中」は、あんまりだよ。


折に触れるたび、あなたが物語で語った言葉が私を励ましたり、支えになったりしているなんて知る由もないですよね。


だけど、今日も彼や彼女は私の中で生きています。
あなたと、あなたの物語に出会えたから。
私は今日も生きています。


ありがとうをあなたに伝えたくて。
こんな形で感謝を綴らせてください。

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