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神尾和寿 ぱちぱち 『ガーネット』VOL.102より


ぱちぱち
                神尾和寿
生まれた家の

左隣の店では
肉を売っていて 
ときどきトラックが停まっていて
後ろ側の扉を開けると
頭と足を失くして
内臓部分をまるげと持ち去られた そのあとのウシが
何個もぶら下がっていた
風もないのに
揺れていた
ははーん、
これが肉だな
紫色の判子で
肌の上から評価が下されていた

気持ち悪かったが
もの珍しさもあり
ぼくは眺めていた
ぼくは肉のことを決して嫌いにはならなかった

スライスされたり
挽かれたりして
店頭に並べられたが
それ以外に
店の人たちは奥でコロッケやカツなども揚げていた
ぱちぱち、
ぱちぱちと音を立てながら
それらは順々に揚がっていった
               (全文)

『ガーネット』は、高階杞一さん主宰の同人詩誌。3月1日発行の最新号は、菜の花の色の表紙が美しい。9人の同人による、現代詩にありがちな気難しさとは無縁の親しみやすい詩が収められている。中でも個人的には神尾さんの『ぱちぱち』が、1番好きだった。グロテスクとも言える内容だが、血腥さが一切なく、むしろ、爽やかさえ湛えているのは不思議。言葉の組み合わせ、的確な配置による妙を感じる。「ぱちぱち」というオノマトペも、美味しい肉を提供してくれるウシに対する拍手喝采のようで、ちょっと切なく温かい。

ガーネット102号 500円
1024年3月1日(年3回)
空とぶキリン社


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