夏痩せてをんなの匂ひ獣めく
季題はメタファーみたいなものと、昨日書いたが、和歌の世界の本歌取りのような効果も期待できるかもしれない。
夏痩せてをんなの匂ひ獣めく
橘しのぶ
40歳の頃、詠んだ句。季題は「夏痩せ」で、夏。この季題から、私の脳裏に泛かぶのは三橋鷹女の句である。
夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり
この「嫌ひなものは嫌ひ」は、実は食べ物ではなく、人間関係について言っているような強い語気だ。私は、この句を本歌のように意識しながら「獣めく」句を詠んだ。同じく鷹女の、私の好きな二句は、
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし
嫌いなものは嫌いだと言い切って、鬼女に成り果て、愛を奪う女だからこそ、肉が削げまるで魂だけのように夏痩せしてしまった時、獣の匂いが発散される。たかが17音、されど17音。短いからこそ、言葉選びは厳密でなくてはならない。