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〜シリコンバレーでの2年間の留学を経て〜

 2021年6月、米国カリフォルニア州(以下、加州)サンタクララ大学再生可能エネルギー学科での二年間の修士課程が終了致しました。大学での学びは勿論の事、新型コロナ禍におけるシリコンバレーでの体験は、人生で初の事だらけで、私の小さな人生観を大きく変えてくれました。

<留学の経緯>
2010年入社から電力の系統運用を携わり、電力の需給バランスをコントロールしながら安定供給に努める傍ら、太陽光発電を始めとした再生可能エネルギー(以下、再エネ)の当社電力系統への導入が月日を追うごとに加速し、系統運用が難化していくことに不安を感じていました。

一方で、無限に存在する資源をエネルギー源とする再エネに将来性を感じ、再エネ導入に伴う安定供給に対する懸念と、再エネ技術の可能性との間に抱えるジレンマを解消したいと感じ、再エネ技術やその実証研究のフロントランナーである加州でその最新技術を学びたいと思ったことから留学を決意しました。

<留学までの取り組み>
昔から英語学習は何度取り組んでも三日坊主に終わり、留学を志した当初はTOEIC385点ととても英語ができるとは言えない実力でしたが、個性的な同期や同僚の活躍が刺激となり、「私も負けてられない!」と英語学習継続を後押ししてくれました。

留学に際しては、まず語学資格で大学の 入学基準点を満たす必要があるため、さまざまな参考書や手法を試しましたが、専門家への効率的な学習方法を習い、類似問題集を何百回と毎日ひたすら解くことが最大の近道でした。

また、語学資格の勉強と並行し、オンライン英会話等でコミュニケーションを続けたことが、留学後にも活かされたと感じています。

とはいえ、留学中は英語でのコミュニケーションにかなり苦慮し、当初は授業も殆ど聞き取れませんでした。しかし、留学に至るまでの過程をやり抜いた事が精神的な支えとなり、「今回も乗り越えられるぞ」と常に前向きでいられました。

これから留学を目指す方は、留学に向け投資している時間や熱量が、留学中に現れる壁に立ち向かう力になることを信じ、集中して取り組んでほしいと思います。

また、私自身留学を志してから実現するまでに9年を要したことを踏まえると、なるべく早く取り組みを開始することをお勧めします。

ただ幸いなことに、その9年間で培った、”目標達成への執着心”と、”志のあるものには同じ熱い者たちが集まり力を貸してくれる”という気づきは、私の人生において大きな財産となりました。


<シリコンバレーと大学での学び>

私が留学したサンタクララ大学は、加州サンタクララ市に位置する、同州で最古のカトリック系私立大学です。


留学へ臨むにあたり、アカデミックな会話への対応に不安があったことから、入学前の事前語学研修を希望していました。

しかし、同校は語学研修を設けておらず、渡米直前まで研修先が見つからないことに焦りを感じていましたが、幸運にも近隣のスタンフォード大学で6週間の語学研修に参加する事ができました。

語学研修当初は講師の英語が理解できず、指示と違うことをしてクラスメイトに笑われていましたが、リスニングや笑われることにも慣れ、徐々に語学力が向上していきました。

また、大学での履修登録の仕方や課題の取り組み方等についても指導があったため、スムーズに大学での授業に取り組む事ができました。

不慣れな地での生活基盤を整える時間も考慮すると、語学研修は必ずセットで留学した方がいいと感じました。

また、両校が位置するシリコンバレーは世界の名だたる企業が群居する、テクノロジーの最先端を常にリードする場所として有名です。

そのため、世界中から多くのチャレンジャーたちが集まり、非常に刺激的な場所でした。

スタンフォード大学では、起業のノウハウや人脈獲得のため入学する生徒が多く、実際に会社経営者やビジネスマンが多数在籍していました。


国籍の違う女学生5人が経営の授業を通して投資家へのプレゼンから資金調達に成功したことは、目的意識の高さに感銘を受けました。

また、学生の多くは、「周りがみんな起業するので起業する」という考えを持ち、「周りがみんな就職するから就職する」と考えていた学生時代の私と全く考えが違っていたことは、環境の違いが意識形成に大きな影響を与えるという事を深く考えさせられました。

そしてシリコンバレーには、彼らのような起業家が仮に失敗したとしても、GAFAなどの大企業が喜んで採用するという、学問と実社会の相関関係が上手く効率化されたエコシステムが備わっている事が、常に世界トップ走っている所以だということを納得させられました。

語学研修終了後に入学したサンタクララ大学では、蓄電池を併設した最適な発電コストの評価手法(均等化発電原価)や米国における脱炭素化に向けたエネルギー政策に関する授業が特に有意義でした。

当社が掲げている「再エネ主力化」、「火力電源のCO2排出削減」に取り組む上で有用な技術として、その学びを活かしていきたいと思います。

また、新興国市場におけるビジネス展開について学授業では、ターゲットとなる国の地域特性や国民性を活かした市場参入の可能性及び参入障壁となり得る法制度への対応策について、ケーススタディを交えて議論しました。

当社の海外事業領域への更なる推進に、授業で学んだことを活かしていけると感じています。

ちなみに、同授業の最終日にはグループ毎にビジネス案についてプレゼンを行いました。

私が日本から持ってきた携帯ウォシュレットを生まれて初めて見て興味を示していたチームメイトの米国人と中国人の希望から、トイレットベーパー消費量世界一の中国へ携帯ウォシュレットを普及するというビジネスプランでプレゼンを行いました。

クラスの中で一番質問が多かったので、反響が良かったと解釈しています。

この授業も含め、コロナ以降授業は全てオンライインで行われました。


<米国の電力事情と脱炭素化への取り組み(バイデン政権)>
 大学での授業やエネルギー政策に分野の専門家の方々との勉強会を通じ、米国の電力事情及び脱炭素化への取り組みについて多くの学びを得ることができました。

米国の電力系統60Hzに統一されている一方、電力系統の運用形態は、東部、西部および南部(テキサス州)と大きく3地域に分かれています。

その中で数千社もの電力会社が送電設備の所有権を残しつつ、運用制御機能を独立系統運用者(ISO)及び地域送電機関(RTO)へ移管する手法が採用されています。

米国連邦エネルギー委員会によるルール(FERC Order)はあるものの、各州が独自の規制やエネルギー政策を定めていることから、脱炭素化に対する取り組みに関しては州ごとに温度差があります。

連邦政府が自動車メーカーに配慮し排ガス規制に消極的な一方で、エネルギー自給率が低い加州は独自に再エネ導入に関する取り組みを州法化することで再エネ導入を積極的に推し進めており、その後に連邦政府が追随するなど、加州は国ではなく州として世界を牽引しています。

一方で、州独自の政策を認可することにより発生した事故もあります。

2021年2月にテキサス州で100年に一度の寒波が到来し、暖房負荷の急増により供給力が不足し、他州系統と繋がっていないテキサス州で大停電が発生したことが大きな話題となりました。

気候変動懐疑論派は風力発電が凍結したことによる停電とみなし、これを再エネ導入による弊害であると再エネ推進派を批判しました。

実際はテキサス州の主要供給源である天然ガス発電事業者による防寒対策が不十分出会ったことに起因するものと見られています。

また、オバマ政権時に加盟したパリ協定をトランプ政権時に離脱しましたが、バイデン政権発足直後に再加盟し、気候変動抑制に対する士気が高まっています。

米国全体として2050年(加州は2045年)までに再エネ発電100%を目標に掲げていることから、再エネを有効活用するため蓄電池等のエネルギー貯蔵技術に加え、二酸化炭素の回収・利用・貯蔵技術開発(CCUS)における取り組みが加速しています。

再エネ100%の実現には蓄電池の早急な導入が不可欠であるものの、バイデン政権によると2050年には米国全体で一日分の電力量を貯蔵するために必要な蓄電池量は12,000GWhと報告されていますが、現在の導入ペースでは2025年時点で26GWhしか見込めず、その導入ペースが間に合わないことが課題となっっていることを専門家の方に教えていただきました。

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https://www.woodmac.com/news/editorial/whats-at-stake-for-clean-energy-in-the-us-election/

このことから、電力系統への大容量蓄電池の導入に加え、一般家庭における電力の発電及び消費を促進するため、テスラ社のパワーウォールやソーラールーフ(太陽光パネルではなく、屋根自体がモジュール)などの導入が加速しています。

写真②:左は蓄電池で”パワーウォール”、右は太陽光発電モジュールで”ソーラールーフ”。テスラショールームにて撮影

また、ブロックチェーンを活用した一般家庭間の電力取引への実現に向けた実証実験が盛んに行われている事も印象的で、今後再エネ化がより一層加速していくことは明らかです。

留学前は気候変動について問題意識を感じる機会は少なかったのですが、加州の年々悪化する山火事により、素晴らしい青空が厚い煙に覆われ、この世の終わりのような褐色の空を目の当たりにした時は、生まれて初めて気候変動を実感した瞬間でした。

一方で、気候変動にはさまざまな意見があり、地球の寒暖周期説や偏った思惑を孕んだデータが散見されますが、事実を正確に分析しながら、なんのために再エネ化や脱炭素化を進めていくのかということを、電力社員としてだけではなく今後も地球で生きていく一人の人間として、今一度深く考える必要があると感じました。

<学外生活>
現地では社会人サッカーグループに所属していました。

彼らの職場のほとんどがリモートワークを励行していることから、ランチタイムや終業後を利用してサッカーをしていたことは、働き方の柔軟性が進んでいると感じました。

また彼らは、世界中の誰もが知るような企業や機関へ所属していながらも、現状に満足せず常に高みを目指して成長に貪欲なところは、私の目標設定に対する価値観を大きく変えてくれました。

例えば、テスラ社員で蓄電池専門のインド人プリヤジ氏は、実力をつけたあとはインドに帰り、母国が抱える大気汚染の問題に貢献したいという夢を持っています。


シスコ社員でポーランド人のコワルスキー氏は、シリコンバレーはかつて情熱的な人たちばかりだったが、現在はお金に目が眩んでいる人が多いと嘆き、もっとエキサイティングに働ける世界を求めています。

また、20歳のマダガスカル人大学生マーク氏は、幼少の頃スクールバスから毎日目に映る同世代の貧しい子供たちを助けてあげたいと感じた原体験から、将来は母国に戻り、国民全員に水を配ってあげたいと目を赤くして熱く語ります。

日本人では、電力十社で唯一シリコンバレーに駐在している方にお会いしました。その方は、現地の投資家から情報を集め、スタートアップ企業が持つ最新の技術や取り組みを本社の技術戦略部門に報告しながら新たなビジネス展開に尽力しています。

また、日本人大学生でありながらシリコンバレーでインターンシップに参加し、日本から世界へ発信することにこだわりを持っていることから日本で起業し、パブリックブロックチェーン分野でウェブの新時代の開拓に励んでいる方や、より高いレベルに自分の人生を投資したいとGoogleジャパンからシリコンバレーの本社へ活動の場を移し、夫婦でチャレンジしている若者がいました。

これらはほんの一例に過ぎませんが、シリコンバレーには明確な目的意識を持ち、その実現に向かう努力を惜しまない情熱的な人たちで溢れていました。

年齢や地位に関係なく、弛まぬ情熱を持って日々困難にチャレンジし、夢の実現に向かって強く突き進んでいる彼らを目の前に突きつけられ感化されないはずはありません。

彼らとの時間を経て、「『夢』はその人の意志次第で実現可能で、誰にも否定させてはいけない崇高な人生そのもの」、「自分がどこまで広い世界を見ることができるかは、本人の目標の高さに比例する」と教えてもらいました。

そうであればいっそのこと世界一を目指そうと私自身決意させてくれた事は、今回の留学を通じて得られた最大の収穫でした。


また、加州で年々悪化する森林火災にショックを受け、自分も地球のために何かできることはないかと、医療関係から全く畑違いのエネルギー業界へ転身するインド人や、半導体業界で長年尽力し、エネルギー業界へ転身する日本人起業家など、世界中の意識がエネルギー業界へ向いていることを実感し、エネルギー分野から世の中へ貢献できることは非常に幸いなことであり、エキサイティングなことであると改めて感じました。

写真③:各メディアが、この世の終わりのような空と表現した山火事中の空

<留学を経て>
留学中に得られた事はたくさんあり、また留学へ向けた取り組みの中でさえも多くの学びがありました。

どんなに挫けそうでも続けていれば、向かう先は違えども同じ熱い志を持つ者達が集まり力を与えてくれるということ、どんなに苦しくても自分をどれだけ信じ抜けたかで夢に近づく確率は高めることができるということを、同僚、上司、そして留学中に出会った方々から教えていただきました。

これまで緩い間柄だった人でも、私の仕事や夢を語ると真剣に話を聞いてくれ、絆が深まっていくことを実感しました。

夢の大きさに比例して、見える世界の広さや成長の速度が変わるのであれば、世界を意識して生きていきたい、そしてこれからが私自身の人生の本当のスタートだという気持ちにさせてくれました。

鈍感な私でさえも外に出てみる事で自分の視野の狭さに気づき、自分の可能性を認知することができたので、より敏感な若い世代の方々が早くからこのような機会に恵まれたらと心から願います。

私自身、そのようなチャンスを若い方々へ提供できるよう取り組んで参りたいと思います。

また留学中に、米国で歴代最高齢の大統領及び、多様な背景を持つ初の女性副大統領が誕生した事は、これからの100歳時代において、何歳からでもどんな状況からでも、チャレンジすることで新たな未来を切り開いていけるという希望を私たちに示してくれました。

夢に向かって努力することの喜びを全員が実感できる日が来た時、世界から不幸な争いはなくなるのではないでしょうか。

写真⑤:クラスメートとスポーツバーでサッカー観戦

<謝辞>
最後になりますが、このような貴重な機会を与えていただきました会社、現地での安全な生活をサポートしていただきました人財グループ、留学の道を築いていただいた先輩方、そして電力の変革期という激動の時期に快く私を送り出していただいた電力流通部の皆さまへは、言葉では言い尽くせない程感謝の気持ちでいっぱいです。

そして、私のわがままにもかかわらず一緒に留学に望んでくれた妻と息子にも最大の感謝を送ります。

また渡米直前に米国人に「留学先はどこ?」と尋ねられた時、「カリフォルニアだよ!」と言ったつもりの私の発音が悪かったのか「カンボジア」と勘違いされ、意気消沈しかけた私の背中を押していただいた同期の皆さまにも、この場を借りて感謝申し上げます。

今回の留学を踏まえて決意した事が、10年後20年後、明確に答えとして現れるので、自分を信じ、世の中のためになるよう、引き続き精進して参ります。

写真④:社会人サッカー仲間。真ん中でボールを持っているのが筆者

<おまけ>
英語力向上のため、日課のスピーチトレーニングと英語教室の2つのYoutubeチャンネルを運用しております。英語学習にマンネリしている方は、気分転換にご覧いただけますと幸いです。
チャンネル1:Kiyo’s Daily English Exercise(著名人のスピーチや歌詞を暗唱しています。)
チャンネル2:Kiyo’s English World(米国大統領選ディベートの日本語訳解説をしています。)


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