見出し画像

匚V3作業録

「匚」はホウと読む。東郷清丸による、歌がもつ力の原点をめざす楽団編成。この記事は2024年10月13日の演奏に向けて行った作業の記録を随時書き足していったものです。


DAY1~
次回の演奏に向けて、セットリストはだいたい決めてある。

まずは打楽器チームの譜面を完成させていかなくては。「あたらしい鰓」「L&V」に取りかかっている。V1~V2で試した初期Tune-Yards的な人力リズムマシンのモード、吹奏楽や室内楽アンサンブル打楽器っぽいモード、に加えて次はお祭りのようなフリーセッション感がある有機的なモードを作ってみたい。そのためにどうすりゃいいのか今はわからないが、単純に人が増えて雑味を増やす余裕ができたような気はする。

譜面作成を進めていくためにDoricoを起動。前回Macbookでやっていたものを今度はWindowsでやる。半年ぶりなのでショートカットキーや作業手順のコツも覚えなおす。匚の打楽器セットは僕が独自に考案したものなので、記譜法もそれ用にカスタマイズしたテンプレートを使う。またリハ前の響きのシミュレーションとしての精度を高めるために、ソフト標準で割り当てられている音源ではなく、自分で用意した楽器のワンショットをサンプラーに配置してそれが鳴るようにしている(奏法に応じて割り当てる音源も変わる)。匚V3では打楽器担当者が一人増えて、それぞれが担う打楽器の割り振りが変わったり、アイテムが増えたりしているのでまずライブラリの情報をいじってそれらに対応させていく必要がある。それらがカスタマイズできるだけでありがたいが分かりやすい作業ではないのでいちいち時間がかかる。あと曲によっても多少変化するので結局は都度、微調整が必要。

・インストゥルメントで楽器名(キット名)を作成
・インストゥルメント内の奏法のバリエーションを設定
・サンプラー(Groove Agent)にワンショットを配置
・パーカッションマップで、各楽器の再生音を割り当て

3人同時に演奏してひとつの打楽器アンサンブルになるように設計する。細かい調整は実物を鳴らしてみないとわからないので、MTRに向かって試奏~楽譜の修正、を繰り返す。ちまちまちまちま…全然進まない。あっという間に一日が終わる。究極は演奏者が集まってせーのでやってみないとわからない訳だが、僕ひとりでできるシミュレーションは最大限やっておく。これはある種の祈りだ。


- - -
DAY3~
思ったより全然進まない。記述するのがめんどくさくてしょうがない。頭のなかでイメージするとするする流れていくものを固定して刻み付けていかなきゃいけない。そして現状は既存の曲…テキトーにやってもうまくやれるかもしれないものを記述している所なのでとにかく億劫。でも地球上に私以外これをやる人間がいない。心を無にして打ち込み続ける。いきなり文句ばかりになったが、形になってくるとやはり愛らしい。

「L&V」は匚で演奏するのは初めて。録音版どおりのバンドサウンドで演奏した2019年WWWでのライブ盤を参考に打楽器を編曲。河合君のドラム、角銅さんのパーカッション、厚海さんのベース、演奏の細部をあらためて紐解いてそれぞれの工夫に感心した。匚では、興味とやる気があれば誰でも演奏できる技術水準でやる、と決めている。まあ幅のある規定だけど中3くらいの自分をイメージ。カンを備えた人なら小学生でもいけるかな。いろんな人と演奏してみたい。そのための手紙としての楽譜。…をイメージしながらポチポチ進めていく。

- - -
DAY4
このままいくと全体的に押す予感もするので改めてスケジュールを組みなおしてから「サマタイム」に着手。「L&V」も既存曲だがそれにもまして、元になる録音版は音数が少ないし、それがこの曲のよさなので、音数は増やすけどいわゆるゴージャスとはまた違う。2022年の岡山吹奏楽版のときの良いイメージがあるのでそれを想起しながら。

- - -
DAY5
ツアーだリリースだなんだで結局、1週間弱くらいなにも進まない時間ができてしまった。そろそろリズム隊メンバーのリハに向けた譜面とデモ動画を用意しなければならない。とりあえずプロセスがうまくいくかも試さないといけないので、だいたいできてる「サマタイム」「L&V」動画を撮りながら録音。譜面の調整。演奏のために譜面を紙にプリントする。あっ、紙だとわかりやすい!焦るあまりそのことを忘れてた。ある程度構築されてきたら、プリントした紙の上でものを考えて、メモしたのをソフト上で反映、が効率よさそうだ。ホーン隊のリアレンジも未着手。ほんとどうしよう。

- - -
DAY6
リズム隊リハが近いのでその日にやるものから優先的に着手。「ラ」と「ヤ性」。このへんのミニマル曲は各アイテムの配置をひとつずらすだけで効果がガラッと変わったりするので、決まるまでが長い。演奏のシミュレーションや今後の説明用もかねて動画もやはり撮る。楽譜を書くと読める人が演奏してくれる、というのが匚。しかし僕自身は普段からほとんど楽譜を使ってこなかったので、記述が適切かどうか不安がある。毎回メンバーにヒアリングしてきて、それも必要だが、まず自分が読んで演奏するのが一番だよな。ゆるふわな演奏でもそれなりにカワイい。打楽器演奏の非専門家でもここまでまとめられるなら、リズムの構成はまあ問題ないだろう。打楽器が3人になったことでかなり余裕ができてきた。というか前回は2人でよくこれを実現したな…。3は不思議な数字だ。譜面データに細かい修正を要するので、赤字入れ、手直し。その繰り返し。思った以上に進みが遅い。

- - -
DAY7
いよいよ譜面をPDF出力。これを人に読ませると演奏が勝手に走り出してしまうのでけっこう緊張する。間違いがないか何度も見返したりよりストレスなく読めるように浄書したりしてるとやはり予想以上に時間がかかる。間違ってたら修正していきゃいいんだけども、匚ではなるべく他人の時間をムダに削ぐことのないようにしたい。気遣いというより、全体の流れを滞らせないために。僕ひとりで圧縮できるところは圧縮し尽くすつもりで。

- - -
DAY8
あしたリズム隊のリハなので慌てている。僕はリハの場には居られないのでビデオ通話をつなげてもらってMCはしていくスタイルを予定。譜面があれば最低限大丈夫だけども、ギターと歌があったほうがいいかもしれないと思いついて、急いでパラで各素材を録った。これが活きるかどうかは分からない。匚は遠隔でも事前準備はできるようにしていきたいが、その最初ということになる。ドキドキする。譜面、これまで並べた御託はありつつ最後はノリでエイヤと書き出していってとりあえず想定した分の準備は完了。楽しみだあ。

- - -
DAY9
リズム隊リハ。LINE通話でつないでもらって、むこうで演奏しているのをただ見守って口を出したりする。タイコやシンバルのチョイス。チューニングの具合を調整しながら。「サマタイム」「あたらしい鰓」「L&V」「ラ」「ヤ性」をやっていく。「はどう県」は準備をちょっとサボったためにきょうは演奏不能だった。バカーッ。他の曲はきょうやった技術の範囲内なのでまあよし。画面をみてるだけなのでわからないけど、僕が狙うおもしろさはV2より増してると演奏者のみなさんからフィードバックもあってホッとした。見た目もちゃんと面白いもんな。パラ素材はやっぱり用意しといてよかった。これをそのまま教材みたいな感じで発展できたらいいなあ。譜面と、パラのデモと、ちょっとした解説。

- - -
DAY10
webショップの梱包発送やリサーチ滞在や娘の運動会や…日々のいろんなことに翻弄されているうちに時間がどんどん進んで行く。ヤバイ。いよいよホーン隊の編曲に入っていく。「サマタイム」などもともと無い曲から手を付けていく。文字おこしのようなリズム隊記譜とはまた違って、いままだ無い音の連なりを記述していくフェーズなのでやっぱり面白い。

- - -
DAY11
セトリ上に、いままだ存在しない曲があるのでそれも手を付ける。「NCリソ刷り唄」をコーラス入りでやりたいのでハーモニーの検討。「サマタイム」の続きと「L&V」。入ってりゃなんでもいいわけじゃないので、ラインを打ち込んではしっくりこなくて消し、を繰り返す。行き詰まったときは過去事例を参照。Bruno PernadasやMockyや、Moonchildや、Louis Coleなどのライブ演奏動画を見る。そうそうユニゾンのパワー。それがあってこそなんだった。そんなに難しいことではない、という気持ちを思い出すことが大事。「NCリソ刷り唄」も+2声くらいでやろうとするとけっこう悩みどころが多くててこずる。自分が聴きたいようにつくる、がいちばんむずいなぁ。ホーン系は自分で演奏できないし、経験も浅いので、これは思った通りに鳴らないかもしれないという不安を常に抱えなければならず、クヨクヨする時間も多い。事前にみなさんに譜面を渡していかなければいけないので猶予はそんなにない。自分を励ます。ガンバレッ。


- - -
DAY12
匚V2からV3への譜面の移行がなかなかめんどい、という理由で滞っている部分もあり、それを思い切ってまず全曲分仕込みを進めた。休符でもいいからまず環境として空白を用意すること。頭のなかでいろいろ思い描いてても休符をまず用意しないとなにも音符が入ってこない。これは音楽というよりテキスト記述の話。そこからコーラスの整理をまずしていく。「L&V」「サマタイム」「ヤ性」「ユ星」「炭坑節」あたりを仕上げる。V2ではコーラスの柚子さんが兼任するトランペットが鳴ってるときは一声でどうにかするしかなかったが今回はユウさんが増え、常に二声使用できるので細かいところをちょいちょい調整。コーラスふたりがユニゾンするのも今回のリズム隊にはハマりそうな気がする。「はどう県」や「あしたの讃歌」はそのまんまでいけそうだ。いちおうコーラスはこれでOK。新曲たちはまだ寝かせてる。まずはホーン構成も仕上げてみんなに譜面送ってからかなあ。

- - -
DAY13
きのうの基盤づくりが功を奏し、コーラスとホーンのアレンジが着々と進んで行く。匚V2や岡山吹奏楽の時からのイメージもあるので、ここまできたらそんなにしんどくはなかった。演奏者にとって時間がないということだけが気がかりだが…。とにかく開きなおる。

- - -
DAY14
まだうまく着地してない曲もあるが、まずはできてる分をみんなに共有しなければ。浄書してPDF書き出しを繰り返す。匚では、すらすら初見演奏ができる人ならある程度ラフに参加してもよいように、したい。やさしい言葉で書かれた詩は慣れた人ならだいたい、朗読しながら意味を感じられる、みたいな。そのために改行改ページを含めて、全体の可読性は限りなく上げておきたい。まあ僕自身は譜面を読みながら初見演奏することがほとんどできないので、想像するしかない。(そのうちできるようになりたい)。まだ全部じゃないものの既にファイル数は多く、実際のページ数にするとすごい物量だ。それだけの量の未確定情報がみるみる確定していくので、めっっっっっっちゃ、気持ちいい。うっかり最高の気分になってしまい興奮で夜あまり寝付けなかった。一番つらい部分が終わった感がある。


- - -
DAY15
飯島商店でコーラスチームのリハ。きょうからは僕も現場にいる。コーラスはほとんど従来通りなんだけど、ゆうさんがchorus1初めてなので前任の柚子さんとchorus2碧さんとで確認していく時間。おなじ譜面をみてやっても誰がやるかで全然ちがうものになり、そのどれもがいい感じに思える、のがいつも面白い。あとから美咲さんも合流して、トランペットとサックスだけでホーンチームの読み合わせ&シミュレーション。アレンジ作業中に、思い通り鳴るかが突然不安になって、急遽この場を設けてもらった。結果はかなり上々でだいたいイメージと同じかそれ以上の良さがでていて完全に安心できた。V2はコーラスふたつにサックス1管を添えたもので、コーラスのハモリに対してサックス1ラインで同じ音なぞるのはあんまりおもしろくなかったけど、2管で同じことをするとコーラスと同じことをしても豊かに響いていて、ハーモニーってほんとに不思議だなあ。本番ではさらに若菜さんのフルートが増えるので、すごく楽しみになった。どうやればこうなるのかわからない曲をスピーカーでかけて、柚子さんや美咲さんにアドバイスをもらった。いま興味あるあの濁り感を出すにはふつう5人/5管ほど必要っぽい。ヒントひとつ出てくるだけで嬉しい。

- - -
DAY16
NCリソ刷り唄の再構築は早々にあきらめてしまったが、新曲(Hocket)は形にしたい。コーラスチームに練習は進めてもらってはいるが、終盤にホーンチームが滑らかに浮遊していってその余韻でL&Vが始まるという流れづくりを試してみたい。Bruno PernadasやDirty Projectorsのあの感じ、を念頭にササっと試してみる。なんかいいような、うーんでもあと一歩いけるような…としているうちにボーっとしてきたので早く切り上げて寝ることにした。明日が唯一の全体リハ。

- - -
DAY17
全体リハの日。早めに起きて風呂に入りながら昨晩の続きを考える。コーラスチームが行うHocketをまずそのまま管楽器が引き継いでその流れで浮遊コーナーへ移行する、という形でコレだ!と思えたので、そのまま譜面を書き出して、ついでにまだプリントできてなかったほかの譜面も書き出してコンビニに走った。続々みんながやってきて、軽くホーンチーム初の全員読み合わせ。譜読みに慣れた人たちで、こちらも超絶技巧などを要求することがないので、ハイとやってもらうだけでほとんど成立していた。ありがてえ。全員そろってセットリストをバンバンさらっていく。少しの休憩をはさんで、コーヒーも淹れてみんなに飲んでもらい(これをしたいがために横須賀まで道具持ってきた)、ゲネプロ。匚ではリハを少な目にする代わりに、演劇ではよくあるゲネプロをやる。メンバーのみんなは誰も知らないお客さんをひとり連れてきて、本番を一回やっておく。今回はかのあさん。終わってからリズムチームだけ残って細部の詰めをやらせてもらった。やはり各セクション1回ずつは僕も居る状態でリハしておいた方がいいな。遠隔でできるのは読み合わせ程度と認識しておくこと。


- - -
DAY18

本番の日。前日のイベント出演を経て栃木にて起床し、午前中は桜台で7インチのジャケのオブジェを作ってくれたオハラさんの展示を経由して、温泉に入ってから外苑前に降り立つ。計2週間の長期滞在と多量の作曲編曲作業、変則的な公演続き、などで身体はかなり限界が来ているが新しいチャレンジが入った公演を万全の体調で迎えたことは未だかつてない。いつも朦朧とした状態で舞台に辿り着く。でも脳を絞り尽くして枯れてくる感じ、そもそもそんなに嫌いじゃない。リハーサル。ついにPAえみそんの手を経由して、マイキングした音がスピーカーから出る。サイコー。もうこっからはサイコーって言うだけでいい。本番もつつがなく終了。楽譜として明文化された演奏内容を携えつつも、それぞれにリハまでは無かったことが起こり、対処したりしきれなかったりしながら終わりを目指して旅をする。余裕そうな人も慌てる人もいる。音楽的内容も気合い入れて作ってるけど、そういう演劇的ともいえる瞬間が立ち上がるのが匚のいいとこだよな~と改めて思った。片づけて積み込んで、横須賀へ帰り、朝まで喋りながら始発を待った。今回は録音のみならず運よく撮影までしてもらえたので、取りまとめるのが楽しみだ。全体リハはもう1回くらいあるといい、と覚えておく。旧曲たちのリアレンジがうまく落ち着いたので、それによってたくさん湧いてきた音楽的疑問を実践するような曲をまた一個ずつ考えてみたい。


あと、今回はperc3はマハヤくんBassパートは中村さんにほぼお任せして譜面をあまり作らない感じでラクさせてもらった。マハヤくんが試してくれたいくつかのバリエーションを後ほど楽譜に組み込んでいく。中村さんの細かいアレンジはプレーヤーによるアドリブの余地もありますと記すことにする。

更新終了!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?