ナイチンゲール 0 砂漠の向こうのおとぎ話(女性1:男性1)

書きたくなって書いていたフリー台本です。
同じタイトルのシリーズの、前日譚みたいな感じです。
キャラクターは本編とは全く違う二人の少年少女になりますが…たぶん兼ね役でもいけそう…?
アドリブ・改変含めて、よろしければご自由にお使いください。


◆イブキ
小型飛行ドローン(台詞無し)と旅をしてる、傭兵の少女。18歳くらい。過去に右手が義手になる経験をしているので、年齢以上に大人びたところがある。常に前向き。明るいけど騒がしいわけじゃなくて、芯の強さがあるようなイメージ。
 
◆ノア
イブキたちの旅に同行してる、メカニックの少年。こちらも18歳くらい。皮肉屋で、少し斜に構えたような物腰。正確にはイブキを護衛として雇ってるクライアント。ただし実際には対等な友人という感じで、上下関係のようなものはない。
 
 
 
■ナイチンゲール 0 砂漠の向こうのおとぎ話
◆深夜。野営中のイブキたち。見張りのため起きてるイブキと、目を覚ましてテントから出てきたノア。イブキは膝の上でドローンを寝かせてる。
 
◆イブキ
ん…? 見張り、まだ交代じゃないよ、ノア。
 
◆ノア
眠れなくてな。つーか、イブキ、お前のそれ…。
 
◆イブキ
んえ?
 
◆ノア
そいつ。ビィっつったっけ? そのちっこい飛行ドローン。
膝の上でさ、それ寝てんのか?
 
◆イブキ
だね。たまに、ここで寝ちゃうんだよ。
ビィってさ、下にサブマシンガンくっついてるから。
こうやって膝に乗らないと、傾いちゃって寝心地悪いみたい。
 
◆ノア
ハッ、ドローンが寝心地なんて気にするかぁ?
 
◆イブキ
いろいろだよ。ドローンも、人間も。
コーヒーは?
 
◆ノア
ああ、悪い。もらうよ。
 
◆イブキ
どうぞ。ふぅ…いろいろだよ。
 
◆ノア
いろいろの中身は、あれか?
 
◆イブキ
んー?
 
◆ノア
人工知能と人工知性の違い。
ほとんどのドローンが持ってる人工知能はあくまでシステムで、感情があるのは人工知性。
お前の相棒は、少数派の人工知性搭載機だから…。
だから寝心地も気にする。
…そういう話か?
 
◆イブキ
どうだろうね。
たとえば…ほら、聞こえる?
 
◆ノア
何が?
 
◆イブキ
あれ見て。空のさ。今夜は満月だし、見えるでしょ。
 
◆ノア
ああ、なんか飛んでるな。
あれって…。
 
◆イブキ
テック・ビーの一種。
 
◆ノア
ハチ型のドローンかよ、物騒だな。
 
◆イブキ
そう? 可愛いじゃん。
ミツバチの機能そのままに花粉を運んで、植物と共生する機械。
食料プラントでも使ってるよ。
 
◆ノア
元のはな。
こっちのやつはキラー・ビーだろ。
 
◆イブキ
それっぽいね。テック・ビーの軍事転用モデル。
暗殺用だっけ?
通気口とか換気扇とか、どこからでも入り込んでターゲットに近づく。
あとは毒でも爆薬でもよし。
 
◆ノア
手軽で俊敏なスマート・ボム。
やっぱり物騒じゃんかよ。
 
◆イブキ
二〇〇年前ならね。
 
◆ノア
んん?
 
◆イブキ
最後の世界大戦。
私たちが生まれる、ずっと前の戦争でさ。
いろんな無人兵器が投入されて、国っていうものが壊れて…。
 
◆ノア
結局、そのまま誰も勝たずに終わった戦争…。
あとは瓦礫の街と、少しの生き残りと…回収されず、野生化した自律兵器か。
戦後二〇〇年とは思えねえよな。
自動化されてる生産ラインじゃ、今でも次のドローンを作り続けてるんだから。
 
◆イブキ
うん。…だから、かな。
 
◆ノア
何が?
 
◆イブキ
あのハチ。キラー・ビー。
あれさ、もう攻撃能力なんて持ってないんだよ。
 
◆ノア
…はぁ?
 
◆イブキ
二世紀の間で、キラー・ビーは徐々に兵器としての機能を無くしていった。
学者に言わせれば、いつまで経っても標的情報が更新されないから、不要になったんだ…ってね。
 
◆ノア
まさか。眉唾だろ。
 
◆イブキ
どうだろ。
だけど実際、私はキラー・ビー型のドローンに襲われたことないし、そういう話も聞かないなぁ。
今のキラー・ビーは、新しいのも古いのも、攻撃機能をオミットしてる。
誰に言われたわけでもないのにね。
 
◆ノア
いや、それじゃまるで…。
 
◆イブキ
不思議だよね。
キラー・ビーなんて、それこそ簡易人工知能しかないのに。
今は元の環境ドローンになってる。
適応して、進化して…ハチについては退化って言う人もいるかもだけど。
案外、そういう風に出来てるんじゃない?
 
◆ノア
新しい生態系ってことか?
 
◆イブキ
実際、そう言われてるじゃん。
野生兵器ってさ。
野に生きるようになっちゃってるんだから、そりゃ変わるよ。
変わらない物騒なのもいるけど。
でもこの辺に植物が多いの、なんでだと思う?
 
◆ノア
…なるほどな。まあなんつうか…うん。
俺もお前も、野生兵器が当たり前の時代に生まれてんだし、聞いても妙な話には思わねえよ。
知性のないドローンもそうなるなら、知性があるやつは膝で寝たりもするか。
 
◆イブキ
そういうこと。
私たちが向かってる街なんて、まさにそういう場所だし。
 
◆ノア
ああ、なんて言った?
その動く街。
 
◆イブキ
…ナイチンゲール。
砂漠を越えて、グレームレイクの渇いた土地を横断する、唯一の陸上定期船だよ。
 
◆ノア
想像できねえよな。
要は、バカでかいホバークラフトなんだろ?
そこまではいいとして、街になっちまうっていうのは…乗ったことあんのか?
 
◆イブキ
何度かね。ノアは?
 
◆ノア
コロラドから出たこともねえよ。
せいぜい、傭兵街から交易都市までさ。
 
◆イブキ
あ、そうだったっけ。
んじゃさ、おとぎ話も知らなかったりする?
 
◆ノア
なんだそれ。
 
◆イブキ
あの船が、街になるまでの話。
二〇〇年前の…戦争が終わった、直後のね。
一人の女の子と、彼女を支えたドローンの…たった二人の、家族の話かな。

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