音のはなし

私の父は、家にいるあいだ四六時中オーディオで音楽を流している。
ロックであったり、ジャズやブルースであったり、そのジャンルは様々だ。
それについて特段気にしていなかったのだが、父が出かけて家の中がしんとすると、聞こえてくる音がある。

ぱきっ、しゃく、しゃく。
昼ごはんのサラダ、そのレタスを噛む音。

こっこっ、くしゃっ、ぱきり。
昨日の夕飯ののこりのすき焼きに乗せる生卵を割る音。

すーっ、かっ、かっ、こん。
友達に宛てた手紙を書くときの、便箋とペン先が当たる音。

すぅ、すぅ、くっ、くっ、すーっ。
櫛で髪をとかし、時たま引っかかる音。

ごーっ、ごーっ、ごごーっ。
毎日同じ時間に我が家の家のまえを通る、スケボーの音。

ざざっ、じゃっ、じゃり、ざっ。
お隣のおうちの方が防犯用の砂利を撒く音。

私はきっと、何でもないような、日常が生む音を愛している。
自分の生活がどんな音を立て、人の生活からどんな音を拾っているのか。
聞き慣れた音、初めて聞く音、珍しい音、久しぶりの音。
生活には音がある。
自分や他人が生む飾らない音を、とても愛しく思うのだ。

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