クマの子どもの冬籠り
子グマにとって初めての冬でした。
「冬になったらね、春まで眠るんだよ」
そうお母さんが言いましたが、子グマはそんなに長く眠っていたくありませんでした。眠っている間は真っ暗だったからです。
「それだけ長く眠っていればね、いろいろ夢を見るんだよ」とお母さんは言いますが、それも、嫌でした。
子グマは、夢を見ている時と、見ていない時、その間に何があるのか気になるのでした。夢を見て目が覚めた時に、夢の中のことと起きている時のことは違います。(それもつまらないですが)。けれど、自分は同じクマです。けれど、夢を見ていない時と見ている時と、自分は同じクマなのかしら。
そう思いながら、子グマは冬眠しました。長くて寒い冬でした。いろいろな夢を見ました。遊んでいる夢、食べている夢、泳いでいる夢、飛んでいる夢。
ふと、目を覚ますと、お母さんはまだ寝ていました。もそもそと穴から出ると、あたり一面は雪景色でした。でも、子グマは雪のことを知りませんでした。
白くてまぶしいのを子グマはぼんやりと見ていました。もしかしてこれも夢なのかしら。夢の中には見たことのないものも出てきます。それは大きくなったら何かわかるのかしら。何かわかるのなら、早く大きくなりたいな、と子グマは思いました。
お母さんが起き出してきました。
「まだ雪が積もっているね」
それで、これが雪なんだな、というのがわかりました。
「さあ、戻って寝よう」とお母さんは言いましたが、急に立ち止まって鼻をくんくんさせました。
「ほら、あそこ、梅の花が咲いている。匂ってごらん」
それで、それが梅の花だとわかりました。
「ああ、春が来るね」
「早く来てほしいね」
「ほんとに」
crave/切望する
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