和菓子屋2代
「わしは断固として認めんぞ。」
お父さんがカウンターを拳で打った。また始まった。
「この店をどこの馬の骨とも知れんやつに渡すわけにはいかん。」
「お父さん!」
お母さんが割って入る。
「もういい加減になさいよ。好いたもの同士でしかもお菓子職人なんだからいいじゃありませんか。」
「職人て言ったってあちゃらは洋菓子じゃないか。」
「パテシエですよ。」
「パティシエね。」
姉はこういうのに必ず突っ込む。
「うちの店が饅頭だけじゃなくてフイナンセなんかを置けるようになったのは維さんのおかげなんですよ。」
「フィナンシェだし、保さんのはティラミスね。」
「そうそう、テラミステラミス。」
「なかなか勉強しているのは認める。しかし玉里屋と言えばなんと言っても餡子なのだからそれを作れるようになってもらわなければ困る。」
「あらやだ、お父さんが今朝食べてた薯蕷饅頭だって保つさんが作ったのよ。」
「だから少しピリッとしたところがないと思ってたんだ。」
「相変わらずの減らず口ね。」
「賑やかですね。」
紙袋を受け取ったお客さんが小さい声で聞いてきた。
「すいません。」
「いえいえ。あの、保さんの奥様ですか?」
「それは私です」と姉が割り込んできた。
「あ、失礼しました。なんか、大変そうですね。」
「店に立たなくなってからあれが生き甲斐で、大目に見てやってください。」
usurp/簒奪
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