シンデレラの戦い

月は高く、音楽は美しく、夜は優しく、そして王子は素晴らしかった。しかし、シンデレラは自分が心の底まで醒めているのを感じていた。王子の次の動き、周りで踊る廷臣たちと娘たち、そして彼らの好奇の目を集めている自分自身をも少し上から見ている自分がいるような、そんな気がしていた。

何か一つでも失敗があれば今夜の夢は破れてしまう、その危うさは分かっていたが、シンデレラの心の底には絶対の自信があった。与えられたカードで言えば絶対的に不利だった。魔法使いのお婆さんはこの上ない切り札ではあったが、それを生かすのは私自身なのだ、誰も使い方なんか教えてくれないのだから。

ここにいる全員が与えられた札を教えられた通りに使っている、私だけが必死に自分の賭けをしている。もちろん、何かがうまくいかないことだってあり得る、ネズミの廷臣たちが今頃犬に追いかけられているかも知れないのだ。それで負けても構わない、私は今日全てを賭けた。そんな1日が私の人生にもあった。

鐘が鳴る。シンデレラは一心に階段を駆け降りた。これで逃げ切ったら私の勝ちだ。王子様にだって勝てる。彼も与えられた札でしか戦っていない。私も彼に与えられた無数の札の一枚でしかない。私はそれに自分の札を用意して自分の勝負をした。後のことはいい。あの人はきっと自分では追いかけてこない。

brave/勇気

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