山城国の民話より: 櫟の社と黄鼻丸

 山城国の櫟の社の例大祭に大悪党の黄鼻丸が来た。この男は二升でも三升でも酒を飲む、そのために鼻が赤いのを通り越して黄色くなるのでその名がついたのである。さらには酔いに任せて子供を捻り潰すとの噂であった。今宵、手下を引き連れて現れたのも信心からではないのは明らかだった。

 例大祭の最後には炎で清められた櫟の葉を持った巫女が舞い、その葉で人々を打って浄めるのであるが、今年その任にあたるのは宮司の12になる娘であった。黄鼻丸と手下はまさにその舞が行われんとした時に現れたのである。娘が櫟の葉で打った瞬間に拐かす算段である。娘は豪胆にも黄鼻丸の後ろに周り背を打った。

さあ手を掛けようとして黄鼻丸が急に悶えだした。
「痒い、痒い、背を掻け」
着物を脱がそうとしても肌に貼り付いてどうにもできない。
「たまらぬ、着物の上から打て」
手下がわっと集まって背を打った。その途端、黄鼻丸はぐっ、と言って死んでしまった。背には櫟の葉の形の痣が一面に付いていたという。

itchy/痒い

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