港を出る前に

「この科学技術の発達した時代に霧で出港できないってどういうこと?」
マロウズがイライラしているのも無理はなかった。乗船時間に遅れないために出港の2時間前に港に来たことを考えるとここでもう4時間も過ごしている。暴れ出したって構わないようなものだが、不思議とアンソニーは落ち着いていた。

「仕方ないよ、この時期はよく霧が出るんだから」
「レーダーだってなんだってあるんだから見えなくたって出られるはずだ。怠慢じゃないか」
「ここまで運転してくるのだって相当危なかったのに、こんな図体のものを動かすなんて無理だろうね」
「だったらせめて甲板にくらい出してくれたっていいだろう」

チャイムが鳴った。
「大変にお待たせしております。こちらはアントニオ号の船長です。霧が晴れてきましたので1隻ずつ出港いたします。本船はまだ40分ほど待機します。その間、港内の霧笛をお聞きください」
それと同時に流れ続けていたカーペンターズが鳴り止んだ。(「やっとだ!」「し!」)

白い壁の向こうから微かに霧笛が流れてくる。はち切れそうになっていた船室も急に静かになって、皆が耳を澄ませている。と、アントニオ号が1発鳴らしたからみんな椅子から飛び上がり、そして顔を見合わせて笑い始めた。

foggy/霧深い

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