ペリカンの話

「いいですね、大きいと、ゆったりと空に浮かべて。」
キラキラとした目でウミウに見つめられると悪い気はしない。
「まあ、そうは言っても、浮かぶことのできる高さまで行くのは大変だし、のんびりしているように見えても、バランスを崩したらひとたまりもないから、ヒヤヒヤしているんです。」

「ほんとだよ、横にいるこっちまでヒヤヒヤするんだから。」
そう茶々を入れてきたのはカモメだ。こいつは人間が魚をバラした時に投げる内臓や何かを僕と争って負けたから、腹いせにそういうことを言うのだ。
まあ、でも、今はお腹もいっぱいだし、鷹揚に構えていたい気分だ。
「それはすまないね。」

「まあ、見た目のこともあるから、仕方ないよね。」
「そうなんじゃないかな。」
口を開けて喉袋をいっぱいに広げて中に詰まっていた草を落とした。
「僕にも喉袋があるんです。」
ウミウもそう言って口を開けて喉袋を広げた。ペリカンのように袋が裏表になることはない、ごく小さいものだ。
「いい感じだね。」

「そんなところで悠長に魚を濾したり胃に溜めたりしてるから空中でフラフラするんだよ。」
「それは流石にご挨拶だね。」
「それなら競争してみようじゃないか。」
「そんな気分じゃない。」
「飛び上がるのが下手くそだからだろう。」
「何を言うんだ。」
「そうですよ、流石に言葉が過ぎますよ。」

「じゃあ、ウミウ、お前も混ぜてやってもいいぜ。」
「いいでしょう。ペリカンさんもやりますか?」
「仕方ないな。」
そう言って僕は水の上を走り始めた。カモメもウミウも既に浮かんでいる。それを見送って、走りを緩めてまた水の上に戻った。まっしぐらに飛んでいく二人はまだ気づいていない。僕は余韻で水の上を滑る。

せめて二人のように活発に動けたらなあ、というのは正直ある。でもこの体をどうにかすることはできないから自分でできるように動くしかない。体力もそんなに使いたくない。二人には悪いことをしたけれど、こうしないともっと食べなければいけなくなって、そうなるとまた体を動かしてというのでしんどい。

でも、やっぱり二人に悪い。だから、もう一度水の上を走ってみた。そこから羽を動かして宙に浮かぶ。段々と気流が羽の下をくすぐるのがわかるから、それに乗っかって上がっていく。気持ちいい。本当は気流に乗ればフラフラすることなんかないのだ。今日はどこまでも登って行けそうな気がする。

brisk/活発な

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