真夜中のコインランドリーで

 誰だって一旗上げたいと思ってやってくる。そんなやつばっかりこの街にいる。だから、結局、最後までフラッグを離さないやつが勝つのさ。
ミイラは携帯を見ながら狼男が話すのを聞いていた。午前2時のコインランドリーには他にカップルと小太りの男とがいて、狭い店内は賑やかたっだ。

ミイラにはコインランドリーは快適だった。来日して日本の湿気に気付いてから必死になって乾いているところを探し続けていた中で、洗濯するという必要に迫られてやむをえず訪れたのがコインランドリーだった。水の力は極力抑えられているのに乾燥は野放しになっているこの空間は故郷を思い出させて、息ができた。

そもそも、人を驚かすには暗くてジメジメしたところと相場が決まっているのにミイラは全く湿気に弱かった。型崩れしてゾンビに転職せざるを得ない仲間をいくらでも見てきた。そもそも仕事がなかった。日本に来たのは20才を過ぎてからで、なんとなく大事にしてもらえそうだという安易な考えからだった。

それが今30代の半ばで深夜のコインランドリーでうだうだしている。そのことが気持ち良い日もあれば押し潰されそうになる日もあって、そういう時は決まって狼男と話すのだった。狼男の方が年が上で達観したようなことを言うわりにはもがいていたし、その行動と裏腹な言葉を聞いていると安心ができた。

 ユニバどうでした?
 落ちた。やっぱ今はなあ。
 ねえ。
流行らないというのはお互いわかりすぎるくらいわかっていたからわざわざ言い立てるほどでもなかった。
 テレビでもう少し出られればなあ。
 今、テレビ見ますかね?
 いや、そうは言ってもテレビよ。他のプラットフォームの方が人は多くても、やっぱな。

人前で包帯を巻くのが躊躇される時もあったような気がするが、いつそうでなくなったんだろう?
 お前、包帯ネットに入れて乾燥させてんの?
 絡まるんすよ。あ、ここ乾いてない。
 あと10分やるか?
 まあ、干しとけばいいんで。
 体が資本てのは大変だよな。
 それは先輩もそうでしょう。

mummy/ミイラ

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