ある男

人を一人殺して好いた女と一緒になった。長屋を移って慎ましく暮らしていたから誰にも気がつかれない。江戸から出ないのが良かったと思う。八百八町あればその中に身を潜める方が知らない土地へ行くよりも安心だ。追手が気にならない訳ではないから、それで日々の小さなことで喜べる。

筵の上に座って首が落ちるのを待っている。不思議と後悔は無い。女だけでも逃がせたから良かった。そもそも女には何も悪いところはないのだから。全部が俺がやったことで俺が死ぬことでしか完結しないのだ。そして、ここから地獄に落ちていかな責め苦に遭おうとも、二人で喜び合った日々を消すことはできない。

glory/栄光

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