何もかもが終わるため
「ではみなさんは、こういうふうに、弟が病気になっておじいちゃんと一緒に暮らすことになった、正智君の正しい気持ちはどれでしょうか?」
いつも手を挙げるみんながパッと手を挙げた。早く終わって欲しいから、僕も手を挙げようとしたけれど、やめてしまった。それを先生に見つかった。
「佐渡さん、あなたはわかっているのでしょう」
「はい、お母さんが心配で、早く手伝ってあげたい気持ちです」
「はい、そうですね」
答えた僕の目は死んでいる。先生の目も死んでいる。誰もがこんなことは嘘だと分かっているのに、授業だから、やらなければいけない。
道徳や国語の授業に出て来る文章は嘘だ。
しかも、自分が嘘だと分かってるのに、嘘じゃないふりをしている。もしかしたらこれが本当なのかも知れない。けど、そうじゃない。道徳の教科書のお父さんは仕事に疲れて帰って来る。僕のお父さんは帰ってこない。お母さんは毎日家事をして子供の世話をしている。僕のお母さんの世話は僕がしている。
早くこの時間が終わってほしい。家に帰りたいわけじゃない。ただ、何もかもが早く終わってほしい。
「それでは、6時間目を終わります。ホームルームまで待っていてください」
先生が職員室に戻る。みんな疲れている。
「雅晴、雅晴!」
誰かが教科書のお母さんを真似する。誰も笑わない。
fishy/嘘の
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