落ち葉の行先に

「はい、鼻に乗せるよー」
 何かが鼻の前に差し出されるから嗅ぐ。これは落ち葉の匂いだ。大丈夫、怖くはない。
 毎年、秋になると鼻に落ち葉を乗せたままおすわりをさせられる。去年までは上にある木がはっきり見えていたけれど、今年は何かがあることがぼんやりわかるだけ。風の中の匂いは同じ。

 知っている匂いが少し離れるから不安になる。今まで見ることに頼っていたのを今になって後悔している。もっと鼻を鍛えておけばよかった。
「待て、よ、待て。いい子だねー」
 どうしても足がもぞもぞ動いてしまうのを止められない。声を出すのは必死に堪えている。早く戻ってこないかしら。

 「いい子だったねー」
 やっと戻ってきてくれた。顔を脛に当てる。もう、こうしないとどこに行けばいいかわからない。前はこんなじゃなかった。今の一瞬だけで息が切れていることに気づく。やっと安心できたけれど、もう疲れてしまった。鼻から落ち葉の匂いが取れた。あの落ち葉はこの後どこに行くのだろう?

prime/盛りの

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