仇討ち取り扱い

貴殿の書状は拝読した。仇を討つ一念で幼少からの厳しい剣術修行、諸国放浪、そして艱難辛苦を耐えたことが伝わるものであった。ようやく仇を見つけこれを討つことの喜び、はやる気持ちも手に取るようにわかった。しかしながら、申し上げねばならぬのは、拙者は貴殿の求める仇ではないということだ。

拙者の名前を間違えているのは致し方がない。しかし、拙者は加賀藩ではなく越前松岡藩であり、それを取り違えているのは致命的であろう。また、「見紛うことなき貴殿の右肩の傷」とあるが、見えないところの傷をどうして貴殿が知っているのか。そして拙者は右頬に傷があるのにそれに触れないのはなぜか。

そもそも、仇を見つけたとなれば、もう逃さないように見張っておく必要があるだろう。それなのに、この書状は宿の主人が拙者に手渡してきたものだ。貴殿と拙者とが落ち合い果たし合う場所は書いてあるが、そこに拙者が現れるという保証はどこにもないではないか。さてさて不思議なことばかりだ。

とにかく、拙者はこの書状には返事はするが、果し合いの場には行かない。それは拙者が仇でないからである。むしろ、このような書状を送られて、それを問いただした上で切って捨てたい気持ちさえある。しかし、そのようなことをしては貴殿にも貴殿の仇にも申し訳がなかろう。これを持って返答とする。

「これは、いいんじゃないだろうか」
茶屋の軒先で佐四郎と五平治が手紙を広げている。
「売れるかね?」
「これは売れるだろうね」
「藩名が書いてあるところはどうしよう?」
「これくらいは削ってどうにでもなるだろう。幸い、字体も特徴的だしな」
「宿の主人にはいくら渡す?」
「まあ、二分くらいじゃないか?」

libel/名誉毀損

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