地球の言葉
宇宙人との戦争があって、当然ながら人間は負けた。僕のように大量の孤児が出たから、宇宙人は僕たちを養子にした。奴隷にされるか食べられるかと思っていたからびっくりしたけれど、人間が宇宙に対して悪影響があるから忠告をし続けていたのに聞かないから地球に来てみたら戦争になったということらしい。だから、人間を滅ぼすつもりはなくて、これからの人間を良くしようと思って僕たちを養子にしているとのことだそうだ。
宇宙人は地球の仕組みを真似て学校を作った。急に宇宙人のやり方をすると混乱する、ということだ。最初に学ばさせられたのは宇宙人の言葉だ。自動翻訳機があるんだからいいじゃないか、と思ったけれど、人間の言葉が人間を悪の道に追いやったのだから、言葉から変えなければならないらしい。でも、僕は中学生だから、小学生の子たちより覚えるのが遅いし、ついつい人間の言葉を使ってしまう。その方が楽だからだ。
宇宙人の学校では別に間違えて人間の言葉を使っても怒られはしないし、人から笑われることもない。むしろ、人が間違えて宇宙人の言葉を使っているのを笑うと、それが地球人の考え方だと言われて怒られる。最悪、脳の組織を組み替える光線を浴びせられる。それを浴びたら宇宙人の言葉が覚えられるのならば、それを浴びせてほしいけれど、そうではなくて、自分で覚えなければいけないそうだ。学校でも家でも宇宙人の言葉を話さなければならない。
ある時、宇宙人が来る前から友達だったマクシムが放課後に遊びに行こうと誘ってくれた。ついていったら、地球人が残した図書館の跡地に着いた。
「ここは人間の言葉の本がたくさんあるぜ」
「読んでたら怒られないかな」
「怒られるから楽しいんじゃないか」
なんでここは破壊されていないんだろう? 地球の言葉が溢れている。僕たちは手当たり次第に本をめくった。これは面白そうだな、と思ったのをこっそり鞄に入れて帰った。
夜、布団の中で、本を読む。宇宙人が来る前は本なんか持つこともなかった。僕たちの周りからいなくなった人たちが話しかけてくる気がする。みんなみんな宇宙人の思うようないい人じゃなかった。僕だってそうじゃない。宇宙人は本を持っていない。宇宙人はみんないい人ばかりだ。でも、僕は宇宙人の言葉も喋れないし、いい人にはなれなさそうだ。第一、まだ地球の言葉にしがみついているのだから。この言葉で僕も書きたいと思った。
adopt/採用する、養子にする
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