友達の結婚

友達が結婚した。中学一年生の時出会い、高校までの6年間同じサッカー部で活動した長い付き合いの幼馴染、幼馴染の「幼」がどれくらい「幼」からその言葉の効力を発揮するかわからないが、あの頃の僕らは紛れもなく幼かったので、幼馴染だ。

そいつとはサッカーの試合前よく、相手の学校をビビらせるためにハーフっぽい偽名で呼び合ったり、まるで左利きのように重点的に左足をウォーミングアップしようと相談していた。後、2人揃って字が汚すぎて先生によく怒られた。

中でも思い出深いのは2人でどちらかの家でサッカーゲームのFIFAをプレイしていた時だ。

あの手のサッカーゲームでは相手ボールの時に△ボタンを長押しすると、その間自チームのGKがボールまで突進してくるのだ。

僕らはよく、2人vsコンピューターで試合をし、互いにここが1番面白いというタイミングで△ボタンを長押ししていた。当然無人のゴールに相手のシュートが入る。すると「え?俺押してないよ?お前やっただろ?ふざけんなよ!」とシラを切りあうのだ。画面外から突然ヌルッとGKが現れる面白さ、まさかこんなところにGKが?という面白さ、そして押してないと言い張る白々しさ、全てが堪らなくて2人でケラケラ笑ってた。

2人のお約束は行くとこまで行き、ついにはGKを前に出すタイミングは被り出した。末期だ。互いに本当は俺がやったんだけどな、とほくそ笑みながら相手を責め合い、会話がイマイチ噛み合わない始末だった。

時は経ち半年ほど前、奥様を紹介してくれるとのことで彼の家に遊びに行った。約10年ぶりに彼とFIFAをした。どう見ても△ボタンが光っている。ここだ、というタイミングで長押しした。あの頃と変わらず画面外からヌルッと現れるGK、シメシメ。ニヤニヤしながら横をちらりと見た。彼もニヤニヤしていた。右手の親指はしっかりと△ボタンを押し込んでいた。

先日そんな彼の結婚式があった。初めて参加する結婚式であることに加え、13歳からの友達の結婚ということもあり、めでたさはもちろん、自分もそんな歳になったんだな、あいつももう大人なんだ変わったんだな、となかなかセンチメンタルな思いだった。

帰ってきて引き出物としていただいた紙袋を開けたらお手紙が入っていた。おいおい勘弁してくれよ、照れちゃうじゃん、思わず悪い癖でスカしそうになってしまう。

手紙を開いて思わず涙を流しそうになった。

内容ではない。信じられないほど字が汚かった。何も変わってないじゃないか。

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