名馬が教えてくれたこと バランスオブゲーム

ヒシミラクルに続いて、2002・3歳世代の1頭を。
バランスオブゲームはゲーム「ダービースタリオン」シリーズを製作した薗部博之氏がオーナーということでも有名であったが、馬券で勝とうと思った際に重要なことのほぼ全てを教えてくれる存在でもあった(と私は確信している)。

 以下は、以前に別のブログで書いたことの加筆・再掲となる。

 バランスオブゲームを、中距離G2で、生涯単複を買い続けたら、おそらく相当なプラスになるだろう。掛け金額が大きければ一財産築ける。
 調べてみると…弥生賞が1340円・340円、セントライト記念が390円・150円、中山記念が複のみ270円、金鯱賞着外、毎日王冠1570円・430円(すごい数字)、産経大阪杯着外、札幌記念複のみ110円、2回目の中山記念760円・290円、2回目の毎日王冠着外、3回目の中山記念1540円・300円、オールカマ―550円・210円。最後のレースとなったオールカマ―も勝って最後の6~7歳の4戦で3勝など笑ってしまう(いい意味で)。結局全部書いてしまったが、11戦6勝で複勝率7割超え、手元の粗雑な計算によるとこれらのレースにおける単勝回収率が459%、複勝でも90%と出た。単勝1万円ずつ買い続けたとすると11レースの後に50万5000円のプラス。やはり実感は間違っていない。
 
 ちなみにこの時期重賞レベルの競走を私は毎週見続けていたが、確かバランスオブゲームの単複を買っていたのは札幌記念・2回目の中山記念・2回目の毎日王冠、という下手くそかげんである。弥生賞と春のクラシックが終わった時点ぐらいでG1は敗れ続けるがG2で大威張りする馬と見抜く目が私にはなかった。全てが終わってから気付いたのだ。

 さて、語ってみたいテーマは次の通りで、

 1、バランスオブゲームという競走馬はどんな点に秀でていたのか
 2、重賞を何度も勝っているバランスオブゲームがG2を勝つたび軒並み単勝500円以上ついたのはなぜか

であり、ここから第二第三のバランスオブゲーム探しを模索してみたい。

 1、バランスオブゲームという競走馬はどんな点に秀でていたのか

 一、スタートセンスが抜群であったこと
  私の記憶力もあやふやなものだが、とにかくどんなレースでもそれなりのスタートを切って先行集団につけられていたという気がする。しかもそれが生涯変わらなかった。競走馬もレースを重ねるうちにズルさが出たりある時の出遅れが癖になったりするものだが、そういうこともなく最後のレースまで好スタートを切り続けた。このことが次の要素に関わってくる。

 一、逃げを厭わない先行脚質(しかも二列目につけられる)
  一握りの力の抜けた馬(ディープインパクト・デュランダルのレベル、そのデュランダルさえ脚質のせいでG1を取りこぼしている)を除いて、馬券でうまく勝つには逃げ先行の馬を味方につけないといけないと思う。馬券購入者はハイペースを先行して潰れることよりもスローペースで後ろにつけて届かないことを恐れるべきだ。バランスオブゲームは常に先行集団につけて、逃げる馬がいないときには自ら逃げて、自分を信じて追いかけた人々を満足させてくれた。

 一、重の鬼でありながら時計勝負に対応する
  バランスオブゲームの弱点はスローの上がり勝負に弱かったことかと思われるが、前につけられる馬・自分で逃げられる馬はこの弱点が脚質で緩和される。速い時計で走れることは絶対に必要なことで、淀みないペースを先行し好タイムで堂々と完勝した4歳の毎日王冠などほれぼれするような強さだった。一方で59キロを背負って人気を落とした最後の重馬場の中山記念で5馬身差圧勝。ディープインパクトの3着に逃げ粘った雨の宝塚記念なども印象に残っている。私は「強い馬」というのは馬場状態に左右されない馬だと思う(私の競馬歴ではテイエムオペラオー・ディープインパクト)。

 一、どこのコースでもパフォーマンスが変わらない
  中山が得意だったことは確かだろうが。東京・新潟でも重賞を勝っている。少なくとも左回り右回りに左右されていないし、坂の有る無しにも拘らない。7歳の宝塚記念を見れば京都もダメだったわけではないだろう。札幌の洋芝でも走った。このことは意外に難しいことだ。やはりこれにも脚質が関わっていて、中山が得意な追い込み馬はほとんどいない。

 一、休み明けでもパフォーマンスが落ちない
  休み明けでG2を何度も勝ったバランスオブゲーム。ということは、「常に一生懸命走る気性」ということか。

 一、故障が少なかったこと
  何度も馬券でお世話になるにはまずレースに出てきてくれないといけない。

 一、関係者に恵まれたこと
  無理づかいされなかった(まあ賞金と斤量の兼ね合い的にできなかったところもあるだろうが)ことが競走寿命・能力寿命を延ばしたのではないか。冬の時期は休養に充てて走るのは3月~11月。夏を使われたのも札幌記念出走の時だけだ。適距離のG1とG2にしぼって使われたことはどれだけありがたかったことか。騎手も田中勝でほぼずっと固定。下手に差しを試したりすることなくこの馬の長所を出し続けたと思う。関係者にその長所をよく把握されていたと言えるのではないか。

 それでも、ディープインパクトの単複を買い続けてもいたずらにリスクを背負うだけ。やはり人気薄をうまくしとめないと馬券で勝つのは難しい。
 そこで次にこのテーマだ。

2、重賞を何度も勝っているバランスオブゲームがG2を勝つたび軒並み単勝500円以上ついたのはなぜか

 「人気薄になる」「人気を集める」は人間心理の反映でもある。だからバランスオブゲームがほとんど1番人気にならなかったのはそうさせる心理的働きがあったからである。

 一、G1では気持ちいいくらいいつも完敗すること
  これによってG2ではあれほど強いバランスオブゲームを侮る気持ちが兆してしまうことは避けられなかったと思う。人間も馬も分相応というものがあるからその馬の分相応はどのクラスなのかが早めに見極められれば馬券で勝つ日も遠くないと言えるだろう。

 一、G1での完敗・大敗の直後に休み明けでG2に出てくることが多かったこと
 休み明けというだけで馬券を買う際の心理的ハードルは上がる(2024現在はこの傾向はやや薄れている)。まして齢を重ねてG1での大敗後に出走してきたりすると「衰えが始まっているのでは」と考えたくなるというものである。しかしこの手の馬にとってG1とG2は全く別の質のものであるからたとえ全くいいところなく二桁着順の後であっても何ら臆することはない。G2で大敗してからようやく衰えを疑えばいいのであって、結果的にバランスオブゲームは生涯G2では大敗しなかった。

 一、重馬場での勝利は馬券購入者を疑心暗鬼にさせやすい?
  重馬場で圧勝しても「展開と馬場に恵まれたのではないか」、「速い時計でも走れるのだろうか」の疑問が…いや、時計勝負に対応できることは過去の戦績が証明しているのに、である。重の鬼は重で買って、その後の良馬場で買って、二度おいしい?

 一、(失礼ながら)厩舎・主戦騎手・馬主が地味

 一、血統構成も地味
  記憶によると父フサイチコンコルド、母の父アレミロード、だったかな。当時をときめくSS・BT・TBとは関係なく、少なくとも血統で人気を集めるという馬ではなかっただろう。父フサイチコンコルドと言えばブルーコンコルドを思い出す。これも馬券の味方にするにはすごく良い馬だった。

 一、脚質も地味
  大体末脚の強烈な差し追い込み馬の方が人気は集めやすい。先日の天皇賞でもエイシンヒカリがもし追い込みであの戦績だったならば鞍上も鞍上だからラブリーデイを人気でしのいでいたかもしれない。

 一、レース間隔がよく空く
  短期間に連勝してきた馬の強さはよくわかっているが、間隔があけばそれも忘れがち。正直G2勝つたびにみんな「そういえばこの馬これぐらいは走っておかしくないよなあ」と思っていたのではないだろうか。

 一、得意距離がはっきりしていた
  この馬の得意距離は1800である。それは間違いない。1600は微妙に短く、2000は微妙に長い。だからG1を勝てないのは仕方ないのであるが、なんとなくそのG1での大敗が気に入らないから、直後のG2で人気が落ちる。

 思いつくところを挙げてみるとこのようなことになった。
 だから、馬券で勝つには、

「休み明けを厭わない重の鬼でかつ時計勝負にも対応する、地味でも眼力と技術の伴った関係者とそこそこの血統に恵まれた、スタートセンスがあって逃げも打てる先行脚質の馬」
 
をいかに探すかということなのではないだろうか。

バランスオブゲームは、以上のようなことを私に教えてくれた馬だ。

 では、そのような馬はいたのか?
 古くはエイシンデピュティ・ミヤビランベリ
 最近ではキタサンブラック・タイトルホルダー。
 何頭か発見した。しかし、見てもらえればわかるように、バランスオブゲームに近い特徴を備えた馬は多くG1馬になっていってしまった。そう、スタートセンスも馬場不問もコース不問も先行脚質も、全て優れた競走能力を示す要素なのである。

 優れた競走能力がありながらG1では負け続け、G2では力を見せ続ける希有な競走生活を全うしたバランスオブゲームは、やはりワンアンドオンリーな馬だと感じる。ある意味、こんな馬は二度と出てこないかもしれない。

 バランスオブゲームの現役引退から15年ほど経った今、改めてそう思う。

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