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小さな生活の声 頑張りすぎない方が楽しめた(紗世)

「小さな生活の声」は25〜29歳を対象にした会話の記録です。20代後半に差し掛かった途端、急激に変化する周囲の環境。結婚、出産、キャリアアップ……着実にステージを登っている友人を見て、自分には何もないと焦燥感に駆られる人もいるのではないでしょうか。“大人になっていく自分”と本格的に向き合い、大人と子供の狭間で揺れ動きながら少しずつ変化していく。そんな彼らと私の本音を記録していきます。

第3回目は、化粧品販売、ネイリストを経て、今は某高級ファッションブランドで勤務してる女の子・紗世との話。

ただやる気で勝負してた

奈都樹:最近どうしてたの? 2、3年会わない間にいろんな仕事やってるよね。

紗世:確かにいろいろやってるね(笑)。

奈都樹:化粧品の販売してると思ったら、いつの間にかネイリストになってるし、ストリート系のかっこいい彼氏できてるし。お互い新卒の頃は、会社帰りにバスでよく鉢合わせてたよね。2人ともぐったりしながら家に帰って。

紗世:あの時は完全にキャパオーバーしてたね。社会人になりたてで何もかもわからなかった。

奈都樹:あの頃は化粧品ブランドの店舗で働いたんだよね?

紗世:そうそう。本当は就職する前に留学する予定だったんだけど、体調崩して入院したからお金がなくなっちゃって。今行くタイミングじゃないなと思って、就職したんだよね。

奈都樹:そうだったんだ。

紗世:なんとなく求人見てたら大好きなコスメブランドの求人があって、ダメ元で受けたら合格して。倍率は高かったみたいだけど、当時はまだ20歳だったし、化粧品も好きだし、やる気もあったから受かったみたい。

奈都樹:でも2年ぐらいで辞めちゃったんだよね。

紗世:今思い返すとやりがいはあったけど、メンタルがついていけなかった。毎月店舗でイベントやって、接客以外にイベントもやるって、業務量的に結構大変で。イベントやっと終わったと思ったら、翌日には来月のイベントのこと考えなきゃだったし。

奈都樹:私もあの時期、電気屋の店舗で販売してたからわかる。しんどいなかで「いらっしゃいませー」って言ってたもん。

紗世:休みの日でもずっと仕事のこと考えちゃうよね! スケジュール的にも厳しいのに、ちょっとした報告忘れがあったら、休みの日とかお構いなしに先輩から電話がかかってきて怒鳴られることも普通にあるし。

奈都樹:それもわかる!休みの日にどんより暗くなったりしてね(笑)。デート中でもお構いなしにどんよりオーラ出してたわー。

紗世:でも、あの仕事やりがいはあったんだよね。3ヶ月に一回とか化粧品の勉強しに行ったりとか同期と話す機会があったし。勉強になることが多くて、自分が成長してる実感もあった。でも、うーん。なんていうか、頑張りすぎない方が楽しめたんだろうなあ。

奈都樹:頑張りすぎるとだめになるって周りの友達ともよく話すなあ。研修で優等生だった子ほどすぐ辞めて、やる気なさそうだった子ほど同じ会社でタフに働いてたりしてるんだよね。長く働けてる子ほどオンオフをちゃんとさせる上手さみたいなのがある。

紗世:しかも新卒って本当に何も分からないじゃん! ただやる気で勝負してたっていうか。

奈都樹:「頑張ります!」みたいな精神論じゃ歯が立たないんだよな(笑)。いままで精神論でなんとかなってきたのに!

紗世:何ならパソコンの電源どこですか?レベルだよ。 自分の中で精一杯だったし、どこでどう手を抜いたらいいのかわからなかった。先輩からは「言われたことはちゃんとやってくれるけどそれ以上のことはない」とか言われて。

奈都樹:泣けるなー。精神的にしんどい時って、ちょっとしたトゲが命取り。

紗世:もう頭がパンクしてさ。しかも彼氏とも別れちゃったりもしたから。

奈都樹:うわ……!無理!

紗世:色々重なって「これはもう休まないと」って思って辞めた。

奈都樹:お疲れ様でした。

紗世:うん。うまく手を抜かないと続けられないってことがわかったから、それを踏まえて仕事探ししてた。憧れだけじゃなくてリアルなことを考えなきゃいけないなって。

私がなんでこんな仕事やってるの


奈都樹:じゃあ、次の会社は割とマイペースにできた感じ?

紗世:全然できなかった。

奈都樹:そうなん。あれ、次も化粧品の店舗スタッフだったよね?

紗世:うん。合格の電話がきたと思ったら「副店長やってください」って言われてさ。

奈都樹:おー、なるほど。

紗世:まだ22歳とかだったから、まじかって思ったよね。でも店長がいるんだったら大丈夫かと思って承諾したのよ。そしたら、店長になるはずだった人が研修1日目でばっくれてさー。

奈都樹:やばいね。

紗世:結局私が店長やることになったの! 急に責任者とか心の準備できないじゃん。ほんっと大変だったわ……。

奈都樹:店舗スタッフって年上とかもいるんでしょ?

紗世:いるいる。年齢層が幅広くてさ、どうやって接したらいいのかわかんないよ!

奈都樹:紗世がリーダーシップとってやっていく姿は想像できないなあ。個人プレーが得意なタイプじゃん。

紗世:そうそう。団体とか苦手だし、引っ張ったりしないタイプじゃん。なのに、副店長もいないから頼れる人もいないし。しかもみんなオープニングスタッフで、社会人経験もない子たちが集まってたから、一から教えることになって。1ヶ月前まで仕事なんてしたくないと思ってたのに、なんでこんな仕事やってるのって話だよ ?!

奈都樹:怖いなー死にたくなる。

紗世:10年ぐらいキャリアを積んだ人がやるような仕事をやってた感じ。もうどう考えてもおかしいのよ。

奈都樹:ほんとだね。

紗世:この仕事をして、人によって何もかも180度違うことがわかったよね。先輩に対して「なんでそんなことしてるんだろう」って思うこともあったけど、そこをわかってあげられなかったのは申し訳なかったなとか思った。でもお互いにはお互いの感情がまじであるから、理解し合わないっていうか。

奈都樹:うん。

紗世:そもそも、やったことがない仕事なんて、どうしたらいいかわかんないよね。私だってついこの間まではそっちの立場だったのに、急に店長の立場になってるんだから。

奈都樹:店長として意識したこととかあるの?

紗世:仲良くなりすぎたらよくないかなとか思って、みんなとはあんまり話さないようにしたりしてた。みんなと楽しく仕事をするはずでこの会社に入ったのに、結局仲良くなれないし、店長って立場になると本社とも衝突しまくるし。前とは比べものにならないぐらいのストレスだった。休日出勤も当たり前だし。

奈都樹:そうかあ。私もお店行ったことあるけど、紗世に会いにきてる人とかいたし、側から見たらキラキラしてみえたけどなあ。

紗世:裏では泥臭くやってても、結局キラキラした場所には見えてるんだよね。やっていけたのは、後輩の子たちが可愛かったからかな。基本的には素直でいい子が多かった。

奈都樹:そういう経験してるからかわかんないけど、紗世ってすごい落ち着いたよね。前はもっとキャピキャピしてたもん。

紗世:「先輩うざいんだよねー」とか何にも考えずに言えてるような立場だったら、こうなれてなかった気がする。色々若いうちに経験しておいて良かったとは思うけど、まあそれも「振り返れば」って感じだよね。

奈都樹:で、次はネイルやったりしたの?

紗世:うん。小学生の頃からネイルやりたかったんだけど、やっと働ける場所が見つかって。それまで働いてたお店は未練がなかったから二年ぐらいで辞めて、そっちに行くことにしたんだけど、結局ネイルのお店もいざ入ってみたら私には合わない世界だった。

奈都樹:人が合わないってこと?

紗世:うーん。美容院とかサロン業務の働き方が合わなかった。いざ入ったら一番ボロボロになったね。

奈都樹:どのあたりがそんなきつかったの?

紗世:サロンの人数自体が少ないせいか、スタッフのヒエラルキーがちゃんとあるんだよね。自分と同じヒエラルキーの人はいなくて、売り上げとか経験年数で上下関係があってしんどい。「個」じゃなくて「サロン」でずっと固まってるって感じだったし。

奈都樹:へえ、なるほどね。

紗世:私、急に一番上になったりしたから、その職場で一番下になったことが耐えられなくて。やっぱり技術磨くだけじゃだめなんだよね。協調性とかチームワークがないと。それがほんとに合わないなって。

奈都樹:働いてると、自分の協調性の無さを実感するよね。嫌なものに合わせることの違和感がどうしても捨てられないというか。

紗世:私、休日出勤とか残業とか大っ嫌いなの。だけどその仕事は、業務が終わった後にも練習時間があって、強制じゃないんだけどやらなきゃいけない空気があるのね。それが毎日しんどくて。

奈都樹:うん。

紗世:ぬるっとするのも嫌だったからすぐやめた。よくしてもらったから申し訳ないなって思ってるけど、サロンにはもう絶対入らないな。私、協調性ないから。

自分が納得しないとダメだろっていう

奈都樹:数年の間でやりたいことにチャレンジしてて凄いと思うけど、紗世みたいなやり方に対してなんか言ってくる人とかはいなかったの? 

紗世:いたかもしれないけど、覚えてない(笑)。やっぱり人の話聞いてないんだよね! 自分の都合の良いことしか思い出せないの。それに、私の友達は同じスタンスを持ってる子が多かったかな。まあ、仮に何か言ってくる人がいたとしても、その人たちって責任とってくれないじゃん! 自分が納得しないとダメだろっていう。

奈都樹:いいなあー、その考え方(笑)。その後は何やってたの?

紗世:焦って正社員になってすぐ辞めるのは嫌だから、とりあえずバイトすることにした。

奈都樹:やっぱり何度も仕事を辞めるわけにはいかないって気持ちはどこかしらあるよね。一旦休憩期間を置くって意味では大事かも。

紗世:バイト先の人には今まで話してきたようなこと全然言ってないんだよね。だから、こんなバリバリ仕事やってたんだってびっくりされると思う(笑)。

奈都樹:確かにいろんな経験してるよね。忙しかったねー、この数年。

紗世:もうこれ以上求めることない! いろんな経験したからこそ、あらゆることに冷めてて、諦めもつくようになってる。

奈都樹:今はまた新しい仕事してたよね?

紗世:私が好きだったハイブランド系の店舗で1年ぐらい働いてる。やっぱり接客は好きだから続けていきたくて。それに今の職場はすごい働きやすいかも。

奈都樹:何がそんな違うんだろうね。

紗世:お客さんの年齢層が上がったことがすごく良かった。心が豊かな感じがするというか。そういう客層のなかで働くと、知らないことを教えてもらうことも多い。前は前で自分より年下のお客さんと話せて楽しかったけど、それとは違った楽しさがあるね。

奈都樹:へえそうなんだ。今は仕事もプライベートも両方うまくいってていい感じじゃん。

紗世:彼氏ができたのも、今の会社に入った時期と同じタイミングでそんなうまくいくか?!って思うぐらい。両方うまくいってる。この後大きい落とし穴があるかもしれないけど(笑)。今はすごく楽しいよ。




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