ケーブルインシュレーターは面白い
今出ている音元出版「analog」誌Vol.82の22~23ページに掲載されている読者訪問欄「レコード悦楽人登場!」は、私が訪問並びにリポートを担当した。詳しくは誌面をご覧いただきたいが、ご登場願った松田學さんは、とにかくスピーカーからラックからチェアから部屋に至るまで何でもご自分で製作され、しかもその出来栄えが完全に玄人はだしという、素晴らしいDIYスキルをお持ちだ。私もスピーカー自作派の末席を汚しているが、おそらく300年かけても松田さんの足元に及ぶことがないだろう。
そんな松田さん宅訪問の際、「ケーブルインシュレーターを自作しているので、よかったらご自宅で音を聴いてみて下さい」と仰っていただいていたようだ。こんな曖昧なものの言い方をするのは、お恥ずかしいことにまるでその会話を覚えていないからである。読者訪問というのはもう何十軒も行ってきたし、そう緊張しているつもりはなかったのだが、やはりどこか心ここにあらずという部分があったのだなと猛省した。
DIY界の巨人が製作した銘木製のアクセサリー
というのは他でもない、訪問が終わった後日に松田さんからの荷がわが家へ届き、中身がケーブルインシュレーターだった、という次第だ。何でも、取材当日に渡しそびれた個体ではなく、何と銘木の花梨を凹字型に加工したものという。4個入っていたので、両手に1個ずつ持って打ち合わせてみたら、まるでクラベス(拍子木)のような美しく締まった音で鳴る。下世話な話で申し訳ないが、商品化したらいくらになるだろうと思わず天を仰ぐ。大変な逸品といってよいだろう。
銀杏と花梨を同条件で聴き比べる
先程紹介したanalog誌Vol.82の189ページに囲み記事で紹介している、でんき堂スクェア・オリジナルの銀杏(イチョウ)材ケーブル・インシュレーターが、現在のところわが家のリファレンス・ケーブルインシュレーターを務めてくれているので、挿し替えて音を聴き比べることとした。
クラシックはギュッと身が締まった表現となり、音の粒立ちが向上する。全体に端正な表現の方向だが、銀杏材に比してやや暗色と感じなくもない。ただ、これは銀杏の方がやや明るめの音色を持つためとも考えられる。全体に音場は立体感を加え、濃厚だが実に聴き心地が良い。オケのスケール感もアップし、眼前に迫る大迫力が心地良い。
ただし、銀杏比やや音がコッテリ系で、そういう意味では若干聴き手を選ぶかもしれない。
ジャズは明るく音の飛沫が飛び散る傾向の銀杏と比べ、こちらはグッと落ち着いた傾向の表現を聴かせる。ピアノのタッチは緻密で濃密、ピアニストが指先へ込めた力の大小がはっきりと描写される。ウッドベースのスピード感は若干銀杏の方が上かなと感じさせるが、こちらのガッシリ身が詰まった実体感も捨て難い。
ポップスは電気的なエコーが「こんなに広がっていたかな」と思わせるほどの展開を聴かせ、ボーカルは緻密で色っぽく、思わず惚れてしまいそうだ。長年愛聴しているソフトだが、こんな表現を聴いたことがなかった。
しかし、銀杏のややアップライトながら明るくよく音を飛ばす特性もあれはあれで大いに捨て難く、こういうソフトでは花梨の緻密さよりもひょっとしたら似つかわしいかとも思う。まぁお好み次第というところであろう。
素材はどうあれ、ケーブルインシュレーターは必要だ
念のため、ケーブルインシュレーターそのものを外し、スピーカーケーブルを床へそのまま這わせたら、一気に音が鈍重になり、音場は濁ってボーカルが立たなくなった。ひとまず素材は置くとして、やはり何らかのケーブルインシュレーターは使用せねばならないと考えてよいだろう。
今回の試聴では、でんき堂スクェアの石峯篤記さんに少々申し訳ない書き方になった部分が多いが、しかしこの銀杏材ケーブルインシュレーターは2個で4,500円と極めて廉価で、一方の松田學さんご製作花梨インシュレーターは、店頭販売すれば何万円になるか想像もつかない。でんき堂インシュレーターの魅力は、私自身リファレンスとして愛用しているところからも重々承知しているつもりだ。
とうわけで、現実に購入できること、それが極めて廉価なことという要素を加え、私個人としては銀杏材インシュレーターを強くお薦めすることとなる。こちらについて詳細な音質リポートは前述のanalog誌で書いたから、よろしかったらご参照いただけると幸いだ。
改めて、このたび本当に興味深い試聴を実現させて下さった松田學さんとでんき堂スクェア石峯さんに、厚く御礼を申し上げる。ありがとうございました。
■試聴に使ったソフト
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