見出し画像

Case.01: 50y.o M 転倒・一過性意識消失

【救急隊情報】
屋外作業中、突然後方に転倒し後頭部を受傷した。一緒に作業していた人の目撃あり。転倒後、3分ほど呼びかけに反応がなかったため救急要請となった。
バイタルサイン:JCS2, BP:130/90, HR:100, SpO2:96%(RA), RR:18/min, BT:35.8℃
本人の訴えは特にないが、転倒したことを覚えていない。後頭部から出血しており、圧迫止血開始している。痙攣・失禁はなかった。


①この時点でどういう病態を考え、どのようなプランをもって患者さんを待ち構えるか。

「突然後方に転倒」⇒失神?内因性疾患先行の転倒?作業中に前触れなく意識消失したのであれば心原性はかなり怪しいぞ。内因性SAHも念頭に。
「3分ほど呼びかけに反応なし」⇒失神?痙攣?頭部外傷の影響?
「バイタルサイン」⇒血圧・脈拍・SpO2は保たれてるようだがレベルが悪い。Dの異常はありそうだ。

Planning
・聴診+心エコー⇒早めに弁膜症(特にAS)とざっくりとした心臓の評価をしよう。
・ECG⇒ST-T変化、QTcに注目して致死的不整脈を起こしそうな変化がないかを確認しよう。
・血糖チェック⇒意識障害だから早めにチェック
・頭部CT⇒Dの異常があるし、立位からの後方転倒なのでそれなりのエネルギーがありそうだ。早い段階で頭部と頸部の画像評価をしておこう。

【病院到着】                                                                                              0min
ストレッチャーの上で仰臥位の状態で搬送された。頭には止血のためのガーゼ・三角巾がまかれている。ネックカラー装着されている。
バイタルサイン: JCS10, GCS:E3V4M6,  BP:138/92, HR:78bpm, SpO2:96%(RA), RR:18/min, BT:36.3℃
本人に症状を聞いても「大丈夫」というのみで訴えはない。

JCS2→10へと低下している。他のバイタルサインの変化はなくABCは安定しているから、やはりDそのものの異常がありそうだ。失神の鑑別で前駆症状とか胸部症状とか過去の失神歴とか聞きたいけど、本人からの聴取はできないな。

Action
・聴診⇒心雑音なし
・心エコー⇒A弁開いている、右室拡大なし、心嚢液なし、心収縮わるくない
・ECG⇒sinusリズム、V4-6でnegative T(過去心電図にはない所見)、ST変化なし、QTc:0.508sec
⇒新規の心電図変化もあるし、QT延長もある。意識消失の原因がはっきりしなくても病歴と心電図所見から循環器内科へのコンサルトは必須だな。
・血糖⇒163mg/dL
                                25min

②次に何を行うか。気を付けるべきことは何か。

・進行する意識障害があり、今まさに頭蓋内で出血が起きていそう。この時点で頭部と頸椎CTを撮りに行こう。
・ただ、心原性失神がかなり疑わしい。心電図変化もあり、CT室で急変の可能性もある。看護師と一緒に自分もCT室へ行こうモニターも付けたままにしていこう。

CT台に移動させようとしたまさにその時、患者さんが痙攣しだした!!                                                                                                                          30min

③この時に何を考え、どのようなActionをとるか

痙攣した!頭の外傷もありそうだから、それで痙攣したのかな?いやいや!そもそも心原性失神を疑って、モニターまでつけて付き添いでCT室に来たんじゃないか!

Action
・モニターチェック⇒筋電図が入っていて波形はよく分からない
・頸動脈も大腿動脈も触知しない⇒CPA!しかもどうせVFだろ!!
・すかさず胸骨圧迫開始。CT撮像は一旦中止して急いで初療室に戻る。他のDr, NsにCPAでVF疑われることを共有してER全体の”スイッチオン”。循環器内科医にもこの時点でコール。

ERの緊張感が一気に高まる。しかし、まずは自分たちの身の安全を確保するため、皆にフルPPE装着を指示する。発熱はなかったが、胸骨圧迫や気管挿管はエアロゾル発生のリスクがある行為だからだ。

胸骨圧迫継続しつつ、除細動や気管挿管の準備。除細動のパッド装着した時点で2分ほど経過していたため再度波形チェックしnarrow QRSの頻脈になっていた。頸動脈も触知したためROSCと判断した。                                32min

その後の経過
・一度CPAになったこと、急変前から意識障害が進行していたこと、緊急CAGを行う可能性があること、CT撮像の必要もあり、これ以降の診療を安全に進めていくために気管挿管を行う方針とした。
・挿管後に頭部CT施行し、後頭骨の骨折、前頭部に急性硬膜下血腫、くも膜下出血を認めた。
・循環器内科医師の心エコー評価で、明らかなasynergyがなく、ROSC後のECGでもST変化はなかった。                60min

④そもそもの転倒の原因は何か。

ここで最初の疑問に立ち返る。
・ECG変化あり、VF(疑い)・CPAにもなっており、致死的不整脈が出現しての転倒がmost likelyだが、頭部CTではSAHも認めている。内因性SAH⇒転倒⇒SAHによって誘発されたVFという可能性もまだ除外はできていない。エコーでAsynergyもないため、MI⇒VFの線の可能性は下がる。脳動脈瘤精査のためのCT angioを撮像しに行く必要があるかを決めなければならない。


・過去の受診歴があり、1年前に頭部MRA施行されており、その時点で脳動脈瘤は指摘されていなかった。脳神経外科医とも協議し、SAHは外傷性によるものと判断し、追加のCT angioは行わない方針となった。


・この時点で、AMIではなさそうであり、脳出血もある中でのCAGは出血を助長させることにもなりうるため、緊急CAGは行わない方針となった。


・低K、低Mgがあり、QT延長の改善を目指してそれらを補正しつつ、全身管理目的でICU入室となった。


・後に、現場の目撃者から、転倒後の3分間ほどは脈が触れていなかったとの情報が得られた。ただし、どれだけ正確に脈を触知できていたのかは分からないが。

⑤このケースの分かれ道

・救急隊情報で失神、とくに心原性をどこまで強く考えていたか。私はかなり疑っていたので、事前に看護師と共有し、早めのECGチェックを依頼していた。結果は心原性の可能性をより高めるものであった。
・単なる転倒⇒頭部外傷・意識障害と判断し、モニターもルートも確保しないまま頭部CTを優先させていたら、まさに『死のトンネル』になっていた可能性がある。
・CT室でモニターを付けていなかったら、看護師一人しかいなかったら、痙攣を見た時に脈を確認するというactionを起こしていなかったら。。

Take Home Message


①外傷患者では、内因性疾患の関与の有無をとことん突き詰めること
②急変リスクを察知し、しかるべき対応を準備しておくこと
③ある結論を出そうとしたとき、自分が最初に立てた問を十分説明しうるものなのかを考えること






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?