重篤感のない慢性的な症状を訴えて真夜中にERを受診した患者さんに、救急医がやるべきこと

ERで当直中。深夜2時頃、日勤帯からの引継ぎ時から続いていた怒涛の受診ラッシュもようやく落ち着き、仮眠をとろうと当直室のベッドに入り込む。

まさに眠りに落ちそう、、というその瞬間に、胸元のPHSが無情にも鳴り響く。

「70歳の女性の頭痛の患者さんが来ています」

予診票に記載された内容を見ると、「2ヶ月くらい前から頭重感があり、ふらつきもある」と記載されている。少し血圧は高いけど、バイタルサインにも大きな異常がなさそう。

これを見た時に、何を思うか。

「2か月前からの症状なのに、なんで夜中のこの時間に来るんだ?」
「日中の外来にかかってくれればいいの」
「どうせ緊急性ないから、一応頭部CTだけ撮って終わらせよう」

誰しもがこのような感情を抱いてしまうだろうし、自分自身もそう思ってしまうだろう。
だが、頭部CT撮って異常がなく、「緊急性のある疾患ではないから、日中にかかりつけの先生の外来で相談してくださいね」とだけ説明して、それでERの役目を果たしたと言えるのだろうか。

「ERの役割は、命に関わるような重篤な疾患をみつけることや、入院が必要か外来でよいかを判断するところでしょ。」と考える人も多いだろう。確かに間違ってはいない。しかし、それらと同じくらいかそれ以上に大切な役目があると思っている。それは、

不要なER受診を患者さんにさせないこと

これの意とするところは、夜中の2時に睡眠を妨げられたくないという安易なものではない。夜中の2時に受診してしまった理由はなんなのか。2ヶ月も前からの症状なのに、今までかかりつけの主治医には相談したことがないのか。

夜中に受診してしまった本当の理由を聞き出さなければいけないし、主治医に相談できていないのであればその理由も確認しなければならない。そして、その患者さんが日中に、適切な診療科を受診できるように導かなければならない。もしかしたら、本当の理由を聞き出すことができたのなら、重篤な疾患である可能性が高まるかもしれないし、ERで解決してしまい今後の受診自体必要がないかもしれない。

これらのことを疎かにして、上記のような説明だけして帰宅してもらった場合に、何が起こるか。患者さんは、不安に駆られて再度夜中に救急外来を受診してしまうのである。そして、他の医師にその患者さんを診させてしまうことになる。これは、最初に診た医師のマネージメント不足なのである。

ERでは、その場限りの、自分の勤務時間帯を何とか乗り越えれば良いという(そう思えてしまう)マネージメントを行う人が非常に多い。それが他の勤務帯のメンバーに皺寄せがくること、何よりも患者さんが不利益を被るということをイメージできていない。

外科医が、その場限りの手術をするだろうか。術後状態が悪くなったり、再発したりしたときに、それを見て見ぬふりをして他の術者に任せたりするだろうか。

外科医にとっては、手術室が最高のパフォーマンスを発揮する場であるだろう。それと同じように、救急医はERで最高のパフォーマンスを発揮しなければならないし、そこを受診した患者さんのマネージメントに責任を持たなければならない。それをやらなければ、いつまでたっても患者さんからも、専門科からも信頼を得ることはできないだろう。

要するに、重篤感のない慢性的な症状を訴えて真夜中にERを受診した患者さんであっても、プロ意識を持って最良のマネージメントを行わなければならないのである。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?