見出し画像

Emergency Physicianの役割

「救急医」と一口に言っても、全ての救急医が同じことをできるわけでなく、各々が専門としている分野が存在する。

・重症外傷患者に対して手術を行う外傷外科医
・様々な臓器や血管の損傷に対してカテーテルで治療を行うIVR医
・ICUで重症患者の集中治療にあたる集中治療医


他にも、脳神経外科、整形外科、循環器内科など、各専門分野の専門医が救急医として働いている場合も多い。

その中で、軽症から重症患者まで、年齢・性別を問わず全ての患者の初期診療を行うことを専門とする救急医もいる。それが、emergency physicianである。ER医、ER doctorなどの呼称の方が馴染みがあるかもしれない。

従来、この領域の診療は、各病院の内科医や外科医が持ち回りで(自分の専門分野の診療の合間に、片手間に、イヤイヤながら)担当していた。この業務に専念する救急医もいたが、専門科の医師からは、「単なる振り分け屋」や、「誰にでもできる」などと言われ、肩身の狭い思いをしてきた医者も少なくないだろう。確かに、とりあえず検査や診断だけして、あとはお任せ、という診療をしている人が多かったのも事実だろう。

ただ果たして本当に、「誰にでもできる」のだろうか。ある程度の頻度で救急外来業務に携わり、経験年数を重ねたものであれば、救急外来を「回す」ことはできるし、夜間の救急外来の1人当直などのバイトもこなすことができる。

では、emergency physicianの役割とは何か。Identityは何なのか。以下のように思う。

・患者の年齢、主訴に関わらず対応できる
・軽症な方の初期診療から、重症な方の蘇生まで行える

これは、先にも述べた通りである。さらに、

・様々な疾患のゲシュタルトを知っている
・様々な疾患のRed flag signや、pitfallを知っている
・目の前の患者のその後の変化を予期できる
・一筋縄ではいかない時の、二の手、三の手を持っている
・各専門医がより専門的な診療や決定的な治療に専念できるように各領域の初期診療を行う
・患者を安全にマネージメントし、適切なdisposition決定を行う
・ERでは解決しないプロブレムであっても、道標を示すことができる 
・医学的プロブレムだけでなく、社会的プロブレムの対応も積極的に行う(むしろここがとても大切)
・複数科にまたがるプロブレムであれば、連携役としてマネージメントを行う
・研修医や後輩の指導にあたりながら、フロア全体のマネージメントを行い、さらにその地域の医療状況を意識して行動する


このようなことも意識しながら診療にあたっている。

それでも、自分で治療や手術とかできないとつまらなくないか、やりがいを感じられないのではないか、と思われる方もいるだろう。その意見は大いに理解できるのだが、私は上記のようなことをプロ意識を持ってやることにやりがいを感じている。特に理由はないし、それが楽しいのだ。大学生時代から思い描いていた自分の理想の医師像が、emergency physicianそのものなのである。

Emergency physicianは基本的には決定的な治療を行うことはしないし、できない場合が多いのだが、そこに至るまでの役割は非常に大きい。

・診断がもっと早ければ…
・初期に患者をもっと安定させられることができたら…

残念ながら不適切なマネージメントが原因で、決定的治療にすら辿り着けない場面もある。

ここで、emergency physicianとしての大きな役目の一つが

・時間的猶予を作り出す

である。診療には様々な不確定要素が存在する。コンサルトした相手がまだ経験が浅ければ、判断に時間がかかるであろうし、上級医に相談する必要もある。いざ手術となってもどれだけの時間で手術開始できるかは、その時の手術室の状況や、麻酔科医・オペナース・MEのマンパワーに委ねられてしまう。

そんな場合に備えて、我々は最短で最適なマネージメントを行い、30分でも1時間でも時間的猶予を作り出す。ただこれは、医者1人でどうこうできることではない。各職種が一丸となって臨まなければ達成できない。

そのためにも、スイッチを入れてチームを鼓舞し、役割を明確にし、よくコミュニケーションを取り、焦らさず、でも迅速に、適度な緊張感を持ちながら診療を進めていく。そして、診療の終わりにはデブリーフィングを行い、次へと繋げていく。

こういうことが、emergency physicianの役目だと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?