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研修医指導の際の心構え.05「診断をもとめる」

研修医のアセスメントでよく耳にする文言がある。

「致死的な疾患は否定的です」
「バイタルサイン安定で全身状態も良いので帰宅可能です」

これが出た時は要注意であり、私は必ず続けてこの質問をする。

「では、診断は何だろう?」

この問いにすんなり答えられる研修医はそう多くない。
大抵、「●●らしくはなく、△△には典型的ではなく、××も否定的です。」
と返してくる。確かにそれらの疾患である可能性は低いのだろう。

だからといって、それは患者を安全に帰していい根拠としては弱い。

この状況を犯罪捜査に置き換えて考えてみる。

この事件には数名の容疑者が浮上しているが、諸々の調査の結果、容疑者Aにはアリバイがあり、容疑者Bが犯人とするには論理にかなりの飛躍があり、容疑者Cには動機が見当たらない。よって、

「自分はこの3人を容疑者として考えましたが、いずれも犯人である可能性は低そうです。」

では、一体犯人は誰なのか?
容疑者Aのように確固たる理由があって容疑者の候補から外れる場合はよいが、そうでなければ犯人ではないと決めつけるのは危ない。

犯人像をより具体化して浮き彫りにしなければならない。

さらなる調査の結果、犯人の特徴として身長は180cm程度、足のサイズは28cm、男性、顔の一部に特徴的な痣がある、ということまで分かった。

容疑者Bは身長165cmであり、容疑者Cは女性であり顔に目立った痣もない。

こうなると、容疑者B, Cが犯人である可能性は一段と下がる。一方で、これらの条件を満たすものとして、新たに容疑者Dが浮上してくる。

臨床に話を戻す。

「らしくない」理由を見つけるのも大切だが、「らしい」理由も見つけなければならない。

診断をつける努力をしなければ、いつまでたっても診断能力は上がらず、一見すると軽症そうな患者の中から重篤な疾患を見つけ出せるようにはならない。

ある程度診断・病態が絞り込めているから、現状は経過観察で良いとそれなりの自信をもってディスポジションを決定することができる。そうでなければ自分の決断に懐疑的にならなければならない。

研修医・専攻医の先生たちには、この「〇〇らしい」までアセスメントしてもらいたいし、それが本当にらしいのかどうかで新たなディスカションが生じる。
このような上級医とのディスカッションの積み重ねで診断精度が上がっていく。上級医も妥協せずに付き合ってほしい。

最後に、「バイタルサイン安定・全身状態良好」を帰宅させる際の根拠にしてはいけないことも付け加えておく。

私はこのような診療を

『近所のおばちゃん診療』

と勝手に名付けている。
年齢層や性別に深い意味はないし、差別的な意味合いは全くない。

要は、医療者じゃなくても判断できる基準で判断してはいけないということだ。

我々医療者は、バイタルサインも安定しているし、全身状態も良さそうな人からきちんと病歴をとり、診察をして、緊急介入を要する疾患が潜んでいないかを見極めるためにいるのである。
ここでもやはり、診断をもとめる作業が重要となる。

忙しい時には自分自身もやってしまいがちであるため、常に肝に銘じておかなければならない。

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