研修医指導の際の心構え.01「粗を探す」

「粗を探す」とは、欠点を探す、揚げ足をとるという意味で、決して聞こえの良いものではない。ただ、患者さんを診察してきた研修医からのプレゼンテーションを聞くときには、「粗を探す」くらいの心積もりが必要だ。なぜなら、実際に自分が診ていない患者さんのディスポジションを、その研修医のプレゼンテーションで決めなければならないからである。

研修医成り立ての頃や、ER研修を始めたばかりの頃は、突っ込みどころ満載のプレゼンテーションをしてくるので特に問題はない。気を付けるべきは、研修期間も終盤に差し掛かった頃や、後輩ができて変な自信に満ち溢れている春から夏くらいの2年目研修医のプレゼンテーションである。

こなれてくるとプレゼンテーションが上手くなる。上手くなると(悪気はないと思うが)ごまかす様になる。「〇〇に典型的ではありません」や、「✖✖の経過に矛盾しません」などが要注意フレーズだ。

もちろん、”Common is common.”なのだが、「〇〇」にcriticalな疾患を入れて安易に除外しようとし、「✖✖」に命に関わらないようなcommonな疾患をいれてゴミ箱診断をしようとする。こういう時は、突っ込みスイッチを入れてプレゼンを聞かなくてはならない。そして、こんな風に対応してみる。

「〇〇に典型的ではありません」

「確かに典型的ではないけれど、△△な非典型的な症状でくる患者さんもいるし、リスクもありそうだから精査しておこうか」

「✖✖の経過に矛盾しません」

「確かに、先生のいうように✖✖で説明はつきそうだね。だけど一方で、この病歴とこの症状からは、▢▢の疾患の説明もできてしまうね。▢▢の方が見逃すと危ないから、調べておこうか」

ただし、こちらにも気をつけるべきことがある。実際に患者さんを診ているわけではないということ。研修医たちは患者さんを目の当たりにし、見た目や雰囲気、問診に対する受け答えの時の様子などを肌に感じている。そういうことも踏まえて、「重篤な疾患はなさそうだな」という判断をしているかもしれない。

粗を探しすぎて、重箱の隅をつつくような鑑別診断を挙げ、あれも聞いていない!これも診ていない!甘いぞ!!などと言って一人の患者にものすごい時間をかけさせてもいけない。研修医からのプレゼンを聞いてもいまいち腑に落ちない時や、何だか温度差を感じた時には一緒に見に行った方がよい。「確かに先生の言う通り、大丈夫そうだね」となることも少なくはない。

研修医の意見をよく聞きディスカッションすること、その上で、追加・修正が必要な場合には、その意図を理解・納得してもらわなければ、指導医に対して不満を抱くだけで、信頼関係を築くことができないだろう。もちろん、緊迫した状況ではその限りではないのだが、研修医が新たな気づきを実感できるような指導を心がけなければならない。



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