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令和の詐欺師

■はじめに

佐川ヒロユキの人生を追う事により、詐欺師の本質を読み解く。

佐川は神奈川県に生まれ、小学生の時、大阪に移転。地元大学の自動車工学科を卒業後、車ムリエ・自動車ライターとして活動し、ワールドフィンテッククラブ(WFC)役員としてビットコインなどの普及も行っていた。

一時期は「間違いだらけのクルマ選び」を出版した自動車評論家「徳大寺有恒」のゴーストラーターもしていた。

車の事を語る佐川は饒舌で、1,000台以上を試乗した知識と経験が活かされている。

佐川は様々な投資やビジネスを行う中で、一時期は借金が5,000万あった。

「仮想通貨(暗号資産)が出てきてから、借金が無くなりました」とのコメントは喜田川(男=当時51、地方公務員)を驚かせた。

 ■佐川が暗躍する社会情勢

 平成28(2016)年、ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号資産)が広まる前兆があった。

平成29(2017)年1月26日に暗号資産を流出させたコインチェックは、それまで出川哲郎を起用し、CMを流した。

日経新聞には「仮想通貨」「フィンテック」という単語が載らない日は無かった。

喜田川は娘の彼氏がアムウェイ(MLM、マルチレベルマーケティング)をしており、そのつながりで定期的に洗剤・サプリのセミナーに参加していた。

常にセミナーで熱心なアップラインの村下(女性=58、看護師)は、喜田川に連絡してきた。

「アムウェイは効率が悪い。このネットワークを利用して仮想通貨を広げてみない?」

「アムウェイ関係者には内緒にしてほしい。」

「クローバーコイン※という世の中に出ていないおもしろい暗号資産の話があるのよ」

※クローバーコインとは、48(よつば)ホールディングスによって展開が進められていたICO。2017年9月に48ホールディングス本社に強制捜査が入ったことを期に、プレリリース期間中に販売停止された。以下「クローバー」

 村下のことは信用していた。

アムウェイでDD(ダイレクトディストリビューター)の位置は一般の会社では課長クラス。

その村下の言う事なら一口乗ってもよいと喜田川は思った。

連日、村下の自宅でクローバーの可能性が熱く語られた。

特に村下のアップラインである綾香(女性=当時30)は、クローバーの創始者とも懇意にしており、中田の病室での状況なども知る仲であった。

綾香は村下よりも饒舌で、揺るぎなく暗号資産の可能性を語っていた。

クローバーとクレジットカードの連携(実証実験)を観た際、クローバーの可能性を確信し、喜田川は1,500万を投資した。

暗号資産の可能性を知らせようと、同級生の大西(男=51)と後輩の祐美恵(女=40)にも紹介した。

祐美恵は地元の進学校を卒業後、東京の大学に進学。その頃から株をしていた。

多くの日本人は金融に関する教育を受けていないため、投資に関し躊躇するが、祐美恵は興味を示し、村下が主催するセミナーで、すぐさま暗号資産の可能性に気づいた。

900万をクローバーに投資するには時間がかからなかった。

村下や綾香の誘いで幕張での4,000人規模のセミナー(余興:NHK交響楽団等)に参加した。

その後もセミナーは各地で開催されたが、予定されていた時期になってもクローバーが上場しなかった。

クローバーはそれ以降信用を無くし、今は投資者への返済が続いている。

 ビットコインなどの主軸通貨だけ持っていれば、失敗することは無かったが、素人が時代の波(※アルトコイン)に乗ってしまった結果である。

※ビットコインの後に登場した暗号資産(仮想通貨)の総称で、ビットコインの代わりのコイン(alternative coin)を略して「アルトコイン(altcoin)」と呼ぶ。ほとんどのアルトコインの基本的な仕組みはビットコインを元に作られており、ビットコインの欠点や機能性を改善した特徴的なアルトコインが市場規模を拡大している。一方で、ビットコインに比べると流動性や時価総額が低く、信頼性や安全性に問題があるものも多い。

 素人の失敗をよそ眼に、その時代を生き抜いた男がいる。

それが佐川ヒロユキだ。

 ■ポンジスキームが広がる構図

 アムウェイビジネスというMLMは、アメリカの教科書にも載るレベル。

日本では「ねずみ講」と揶揄されるのは、アフィリエイターのレベルが低いから。

 アムウェイをはじめとする多くのネットワーカーが、クローバーの可能性に期待した。

しかし、クローバーはビットコインに近づけなかった。

所詮、ビットコイン以外は※草コインだった。

※ビットコイン以外の暗号資産の総称であるアルトコインの中でも時価総額が小さく、知名度も低い仮想通貨のことをいう。

 今ではクローバーにおけるトップ・アフィリエイターだった綾香は、知らぬ存ぜぬを決め込み、新しいビジネスに傾注している。

あれだけ表舞台で講演していた綾香も、被害者であり、加害者であるからややこしい。

喜田川と綾香は幕張セミナーなどで計10回以上会い、綾香を信じていた。

喜田川は妻に「背が高い美人の黒髪で饒舌な女は、詐欺だと思え!」と憤る。

 さて、村下は暗号資産の知識を高めるうちに、佐川と繋がった。

平成28(2016)年のビットコインを取り巻く環境は無限だった。

クローバーをはじめとするアルトコインの可能性に期待を持てなくなった村下は、ビットコイン押しで各種案件を進めてきた。

ビットクラブはその一つ。

平成29(2017)年12月、喜田川と祐美恵の夫は、佐川、村下経由でビットクラブのセミナーに参加した。

ステージ側で、肉食系の若者がスピーカーをつとめ、パワポ動画ではビットコインの可能性が語られた。

 「2020東京オリンピックでは1ビット100万になります」

「2030年には1ビット50万ドル(5,000万)になります」

「将来1ビット1億になります」

 派手な演出の動画、BGMで参加者のテンションは上がっていた。

喜田川の席の後ろの老女(70代)とその友人(70代)は

 「あんた、なんぼ入れたん?」

「主人に内緒で4,000万入れてもた」

 想像を超える会話がなされていた。

4,000万もの大金をタンスにしまっていたのだろうか。

とにかく、暗号資産への投資は高齢者をも取り込んだ。

NHKでさえ「億りびと」をテーマにした番組を放映した。

世の中が暗号資産で浮かれはじめた平成29(2017)年は、暗号資産詐欺師元年とも言える。

100年前から続く※ポンジスキームは、既に暗号資産の皮をかぶり、日本に入り込んでいた。

 ※ポンジ・スキーム(英: Ponzi scheme)とは、詐欺のなかでも特に、「出資してもらった資金を運用し、その利益を出資者に(配当金などとして)還元する」などと謳っておきながら、実際には資金運用を行わず、後から参加する出資者から新たに集めたお金を、以前からの出資者に“配当金”などと偽って渡すことで、あたかも資金運用によって利益が生まれ、その利益を出資者に配当しているかのように装うもののこと。投資詐欺の一種に分類され、日本語で「自転車操業」と呼ぶような状態に陥り、最終的には破綻する。以下「ポンジ」

 ■佐川との出会い

 平成29(2017)年12月、三宮のセミナー会場でのビットクラブセミナー終了間際、司会者が佐川を紹介した。

「ビットコインで成功されている佐川さんです。今日は体調不良にも関わらず、かけつけてくれました」

会場の出口にスーツケースとともに座っていた佐川は、立ち上がり、前に進んだ。

 「どうも佐川です。今日は少し風邪をひいているみたいですが、何とか来ることができました。さて、これからはビットコインの時代です。いち早く情報を掴んだものが成功します」

 初めて佐川を見た喜田川は、肝臓の悪そうな顔と、ボソボソしゃべる佐川に、成功者のオーラを感じなかった。

ただ、服装、持ち物は安物ではなかった。

喜田川は、イケてない佐川のような人間でも、暗号資産の情報を早く掴むと、資産を増やせると思った。

ビットクラブというより、佐川という人物に興味を示し、各種案件(ポンジ)を勧められることになった。

 ■佐川スキーム

 喜田川家は佐川から4種類のポンジ(ビットクラブ、USIテック、S氏案件、SB101)を紹介され、500万を投資した。

「1つ目、2つ目で気づかないのか?」と思われるが、佐川は巧みだった。

平成29(2017)年12月から30(2018)年5月の半年の間に、次々とポンジを勧められ、登録の翌月は配当がある。

それに安心すると翌月、登録したサイトが見ることができない状態になる。

佐川に「サイトが見られない」と問い合わせすると、「僕も見られない状態になっている。海外に問い合わせする」と時間を延ばされ、結局どうなったかわからない状態に陥る。

しつこく回答をせまると、連絡がとれなくなる。

挙句の果て、「僕も被害者だ」と言う。

後に『佐川ヒロユキ被害者の会』が結成され、11世帯14名が原告となった。

みな、時期は違えど、パターンは同じだった。

多くの投資初心者が佐川スキームの餌食となった。

 通常、暗号資産関連で投資に誘うパターンは次のとおり

 ①  取引所で暗号資産を購入し、値上がりに期待する

②  A社で安く買い、B社で高く売るアービトラージ

③  ※MLM

④  マイニング

 ※MLM(マルチレベルマーケティング)とは、商品の購入者を「販売員(ディストリビューター)」として起用し、その販売員は、さらに別の人を販売員として起用することができる。このように、購入者を構成員として「多階層の販売員組織」を形成しながら、商品の販売活動をおこなっていくことを「MLM(マルチレベルマーケティング)」という。

 暗号資産に関わるポンジは大きく①~④を巧みに組み合わせる。

佐川はいずれの知識も豊富で、タブレットの使い方もうまく、誰もが信じてしまうテクニックを持っていた。

特にビットコインを海外のサイトに送金する知識は豊富で、

 「バイナンスを活用すれば手数料が安いですよ」

 「送金を早くするにはコペイがいいですよ」

 など、最新の知識を得ていた。

 暗号資産を扱うには、スマホやタブレットを駆使し、サイトに登録後、IDとパスワードを取得する。

そのパスワードはgmail送信やワンタイムパスワードの場合もある。

佐川は1965年生まれ、喜田川は1971年生まれのアラフィフ世代。

暗号資産を管理するにはスマホの操作のレベルが一定以上でないと困難だ。

60代、70代の高齢者はセンスが無いとできない。

佐川はスマホの扱いができない者には代理で登録するケースが多かった。

佐川の本性を知らない者は「神様、佐川様」となる。

 さて、佐川が一番よく使っていた手は前述③MLMでのアフィリエイト収入。

原告の被害者の会代表の澤みちこ(55)は、常に「大丈夫、大丈夫」を繰り返し、投資を誘導していた佐川に怒る。

アフィリエイターは「将来、絶対上がる」「大丈夫」などのフレーズはきつく慎むよう指導されており、アップから常に厳しく指導されていた佐川を澤は見ていた。

 一例をあげると、各種ポンジ案件において、「大丈夫」と言いながら、佐川は30万のみの投資、勧誘者は300万の投資でポジション取りをして、アフィリエイト収入(紹介手数料)を稼ぐ。

ポンジは3ケ月後、飛ぶ(無くなる)事がわかっているので、佐川は紹介手数料を手に入れ、コインチェック等のウォレット経由で暗号資産に円から変換する。

暗号資産はコンチェック→A→Bへと送金が繰り返されれば、トレースするのは極めて難しい。

喜田川は警察に「ビットコインの流れを追うことはできないのか」と問うと、「外交問題に発展するので無理」と言われた。

喜田川はK古川警察に数回、I田署に数十回通った。

警察の捜査はアナログで、証拠書類のLINE転送やメール添付はできない。

 「佐川からの勧誘のLINE画面が証拠としてあります」

「署にきてください」

 その後、スマホのLINEのやりとりの画面をデジカメで撮影。我々からすると原始的な手法で証拠集めが行われる。

 その間にもどんどん被害は広がっていく。

世論が高まり、サイバーのプロ組織がないと被害回復は困難だ。

逆に言うと暗号資産を悪用すれば、日本は詐欺天国なのだ。

■心理作戦

 佐川を含む詐欺師は人の心を操るのがうまい。

人前でのトークは、噛まず、よどみなく、反論のしようがない。

「すげえな」と唸る。

平成28(2016)年~29(2017)年は、暗号資産を巡る社会情勢も追い風になり、詐欺師はこの世を謳歌していた。

ビットコインの値上がりの話は、喜田川の職場でも持ちきりだった。

大西 「今買った方がええか?」

喜田川 「待て、昨夜アラブの富豪ムハンマドさんに聞いたら60万まで値下がり後、100万まで行くみたいや」

などと冗談も交えながら、四六時中コインチェックのサイトで暗号資産の価格を注視していた。

セミナーに行くと、「いつやるの?」とスピーカー達は投資を煽る。

「この流れに乗り遅れないと」と参加者は金をかき集めて投資する。

群集心理をついている。

多くの詐欺案件は、海外から日本に上陸し、都市を拠点に全国に広がる。

そこには詐欺マニュアルと詐欺メニューが存在し、新規の顧客はまんまと騙されるスキームが出来ている。

喜田川家は佐川レストランで4品の毒入りメニューを喰らった。

(例え話)

「佐川シェフ、この中華で」(ポンジ1)

「どうぞ」

「しかし、このエビチリはなかなか美味いですな」

「フレンチもどうですか?」(ポンジ2)

「ありがとう」

「どうぞ」

「しかし、このソースがいいですな」

「イタリアンもどうですか?」(ポンジ3)

 「佐川シェフは幅広いですな。では、このパスタを」

「どうぞ」

「佐川シェフ、実にうまい。さすがですな」

「喜田川さん、和食はいかがですか?」(ポンジ4)

「寿司もいけるんですか?」

「どうぞ」

「佐川シェフ、この雲丹は最高ですな。ではお会計を」

その後、家に帰ると腹が痛くなった。

佐川レストランに電話すると、

「中華、フレンチ、イタリアン、和食の仕入れ先に原因があると思われるが、連絡がつかない」と言う。

その間、喜田川は職場を休み、入院し、その苦情を直接佐川に言いに行くと、そのレストランは廃業していた。

とまあ、振り返るとこのようなストーリーだが、被害者は笑いごとではない。

 ■騙される構図

 詐欺師は詐欺師としての人生を歩んでいる。

佐川も詐欺を働こうとして生きているのか、その生きざま自体が詐欺なのかはわからない。

しかし、騙されるものは常に新規の顧客である。

100年以上前のポンジが脈々と引き継がれているのは、投資に関する教育事情も大きい。

義務教育でお金や投資の話はほとんど記憶にない。

これからも、多くの人が騙されるし、まだ生まれていない子供も騙されることになる。

詐欺は石器時代もあったのだろう。

詐欺側は最新の知識を持ち、新規顧客に忍び寄る。

知識のないマネー資本主義に汚染された人々は、いともたやすく騙される。

村下は「自分の生き方がぶれた」と悔やむ。

村下も佐川に※「S氏案件」で800万投資し、被害回復の見込みはない。

 ※元本保証、月利10%を謳う投資案件。佐川との現金のやり取りのみ。S氏が誰かは不明。

 S氏案件は、弁護士を通じて月々の返済があったものの、令和3(2021)年8月から返済が滞っている。

詐欺師からすると、MLM組織をポンジ案件にひきずりこむ事は極めて効率的だ。

詐欺の被害額が増えていくのは、MLM組織とグループLINE(GL)というツールの影響がある。

各種MLMのGLは、それぞれのリーダーが存在し、日々増えていく参加者は、リーダーをあがめ、反論しにくい雰囲気になる。

そこには群集心理が働き、GOGOモードになる。

GLには成功者の画像、動画、スタンプ、拍手喝さいのコメントが続き、常にお祭り状態。

GLは情報拡散ツールとして日本NO1だ。

 
■暗号資産関連の詐欺的被害を取り締まる事ができない構図

 1.警察の問題

・署員が少なく、暗号資産をはじめとする投資に精通した警官がいない。

・操作情報が洩れる事から、被害者とのヒアリングはすべてアナログである。

メール、LINE等のやり取りは基本ない。

・民事不介入の原則

・自己責任論の捉え方の相違

 2.消費生活センターの問題

・市町村の相談員は非正規で勤務時間も短く、市町村からは重要視されていない。

・消費者庁という組織の位置づけの低さ

・投資詐欺の相談案件をある程度理解できるのは、市町村の相談員が相談する県の上部組織か政令指定都市の相談員

 3.被害者の問題

・9割以上の被害者は泣き寝入り

・集団訴訟に関する情報格差

・訴訟に関する費用負担

 4.弁護士の問題

・暗号資産に関する知識が乏しい。

・被害者の着手金が安く、儲からない。

・暗号資産をはじめとする投資案件に強い弁護士は、詐欺師側についている。

・海外から輸入されたポンジを日本で進める場合、弁護士がバックについており、被害者に

とっては不利な状態からスタートしている。

・懲戒請求を恐れる。

 5.詐欺罪を問う事の難しさ

・詐欺罪が成立する5つ構成要件のうち、ひとつでも該当しないものがあれば詐欺罪は成立しない。

(1)欺罔(ぎもう)行為|錯誤を引き起こさせる行為

詐欺罪の成立を非常に難しくさせる特徴的な要件が「欺罔(ぎもう)」

欺罔とは、人を欺(あざむ)いてだます行為を指す。

「うそをいう」ことが欺罔行為にあたるが、欺罔行為とみなされるのは故意に虚偽の事実を伝えた場合。たとえば「来月の給料で返済する」と伝えて借金をしたところ、給料の未払いによって返済ができなかった場合は、不測の事態によって見込みと違った結果が起きただけでうそをついたわけではないので、欺罔行為にはなりません。

(2)相手方の錯誤|錯誤に陥る行為

欺罔を受けた被害者が「錯誤」に陥っていることが詐欺の要件として必須。

錯誤とは、内心的効果意思と表示行為が対応せず、しかも表意者がその不一致を知らないことと説明される。簡単にいえば「うそにだまされて信じ込んだ状態」を指すと考えれば良い。

錯誤によらない財産移転は窃盗罪として扱うのが一般的。ただし「どうせうそだろうと思うが、返済してくれなければ裁判所に訴えればいい」とお金を渡したなどのケースでは、錯誤に陥っておらず、窃盗でもないので、犯罪は成立しない。

(3)財物の処分行為

詐欺罪における「処分行為」とは、つまり「金品を渡す」ことを指す。

被害者自らが財物や財産上の利益を交付することによって処分行為が完成するため、たとえば被害者が目をそらしているすきに、物品を持ち去る行為は詐欺罪ではなく窃盗罪で論じることになる。

(4)財物・利益の移転

欺罔・錯誤・処分行為(交付)による一連の流れから財物・財産上の利益が移転した時点で詐欺罪が成立。ここまでの要件を満たしていても、最終的に財物・財産上の利益の移転がなければ詐欺未遂。

(5)財産的損害

厳密には詐欺罪の構成要件ではないが、詐欺罪は財産を対象とした犯罪であるため「財産的損害」の発生も求められる。

たとえば、取引先にうそをついて錯誤に陥らせて、本来の支払日よりも早く代金を支払わせたケースでは、本来的に代金支払いを受ける権利を有していたため取引先にとっては損害が発生していないことになり、詐欺罪は成立しない。

 佐川の「S氏案件」は元本保証を謳いながらも飛んだ。当初は月1万を返金する行為を継続していたが、現在返金は滞っている。

これも詐欺罪適用を回避する佐川側弁護士の入れ知恵である。

  

■2次被害

 

佐川をはじめとする詐欺師の中に、被害者にとどめを刺す手法がある。

アフィリエイターをしていた詐欺師どもが、被害者を装い、集団訴訟の原告団を募る。

被害者からアフィリエイト収入で儲け、更に訴訟費用を徴収し、悪徳弁護士とともに搾取するという荒業。

投資初心者はポンジにかかり、疑心暗鬼になり、集団訴訟に望みをかける。

しかし、それも仕組まれた罠という事に気が付かない。

2次被害により、被害者が地に落ちれば、追いかけられる確率は低くなる。

ポンジで投資し、財産は底をつき、なけなしの金で訴訟費用を賄う。

この時点で被害者は戦意喪失する。

 ■まくら

 佐川は枕営業が得意だった。

気に入った女性と懇意になり、身ぐるみ剥がす。

心と資産を奪われた女性は立ち直れない。

ロマンス詐欺の技術をも持ち合わせた詐欺テクの宝石箱だ。

 佐川は自動車ジャーナリストとして常に最新の車に乗る事ができる。

所有しているわけではなく、ライターとしてあてがわれた車両に乗り、あたかもマイカーきどりで女性を迎えに行く。

見たこともない車を見た女性は「佐川さんってお金持ち」となる。

ターゲットは20~50代の独身女性。

「将来不安でしょ?」

「貯金は増えてる?」

と囁き、ポンジの世界へ歩ませる。

時には「澤さんもこの案件に投資している」と人の名前を持ち出し、誘導する。

当初、駅周辺の喫茶店を利用していた佐川は、金持ちぶるため、リッツやリーガなど格式の高いホテルのロビーで待ち合わせすることを学んだ。

その後、酒を飲みながら終電間際になると「泊めてほしい」とお願いする。

佐川を投資の先生とあがめる女性は心を許す。

枕で投資までさせた事例は多く、結婚詐欺までやってのけた筋金入りの詐欺師である。

 

■非弁行為をする輩(やから)

 被害者ではないのに、被害者を束ねておこぼれを狙う輩も出現する。

「佐川ヒロユキ被害者の会」の場合、大口被害者の医師の代理として会を束ねた男もいた。

詐欺師を追い詰める知識を持ってしまうと、当初の目的からは逸した行動に出る輩も出現する。

金と知識は人を変えてしまう。

 【資料集 ネット記事より抜粋】

佐川ヒロユキ逮捕(令和4(2022)年2月16日)

暗号資産投資を無登録で募った疑いで逮捕 15億円余集めたか(NHK)

い わゆる仮想通貨=暗号資産の投資を国に無登録で募ったとして、大阪の元会社役員が兵庫県警察本部に逮捕されました。

警察は、およそ1,000人から15億円余りを集めていたとみて調べています。

調べに対して容疑を否認しているということです。

 逮捕されたのは、大阪・西区の元会社役員、佐川ヒロユキ容疑者(56)です。

警察によりますと、4年前(平成30年)、兵庫と大阪に住む30代から70代の男女7人の出資者に対して、暗号資産による投資を国に無登録で募ったとして、金融商品取引法違反の疑いが持たれています。

「元本保証で絶対にもうかる。出資したらおよそ10倍の価格になる」などと説明して、あわせて760万円を振り込ませるなどしていたということです。

その翌年、複数の出資者から「預けた金が返ってこない」という相談が、警察に寄せられていました。

警察によりますと、去年3月までのおよそ4年間に、全国各地のおよそ1,000人から15億8,000万円を集めていたということで、警察は資金の流れなどについて調べています。

調べに対して、佐川元役員は「頼まれて投資案件の説明をしただけで、勧誘はしていません」などと容疑を否認しているということです。

 

【佐川ヒロユキの刑事事件の経過】

・令和4(2022)年2月~5月 詐欺容疑ほかで4回逮捕

・同年5月25日(水)11:20~12:10神戸地裁初公判において金商法違反及び詐欺について認める。

令和5(2023)年7月15日現在、服役中(懲役2年4ケ月、罰金100万)

 ■さいごに

 昨今の犯罪事情を見ると、悪いやつは捕まり、刑期を終えると世の中に出る。

一度、美味しい汁を吸った人間が、シャバに出た後、賃金労働者として生きることができるのだろうか。

答えは否だ。

逃がした暗号資産を現金化し、のうのうと生き続ける。

そして、今までの苦労をバネにして更にポンジをはじめる。

新しい被害者は次々と生まれていく。

日本では仕方がない。

教科書に金融詐欺の対処法が載っていない。

消費生活センター、警察、弁護士相談のハードルは高く、時間とお金がかかる。

 法改正と詐欺被害者が駆け込みできる組織が必要だ。

 

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