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入院と確定診断

多分主人にとって家で過ごす最後の時間を、出来れば静かに送りたかったけれど、本人がそういう訳にはいかなかった。

それでも入院を翌日に控えた夜御飯、なるべく食べやすくて好きな物、と思ってカレーを作った。
元気な頃は激辛大好きだったけど、今はもう中辛よりまだマイルドなくらいの、具も小さめのカレー。
ちゃんと自分で食べてくれて、「おいしい?」と聞いたら「うん」と言った。
ちょっとだけ、救われた気がした。


入院当日はまた大変だった。
数日前の通院の大騒ぎを知っている娘がまた付き合ってくれた。
たびたび仕事を休ませてしまって申し訳ないな、と思う反面、大人になった子供が頼もしかった。

地域医療の要になっているそこそこ大きな病院には、
「今日だけでこんなに入院する人おるん?」というくらいの人がいて、入院受付だけでもかなりの時間待たされる。
娘はまた主人を車椅子に乗せてぐるぐる散歩。
この日は1階だったので外も歩いた。大通りを車が走っているのを見せると、気が紛れるのか少しの間大人しい。やっぱり赤ちゃん。


やっと順番が来て病室に行った。
病院の方から、個室でないと難しいので、個室料金を了承して欲しいという話をされてて、従った。
こんな状態の主人を急性期病院に一時的とはいえ入院させてもらうのだから仕方ない。
この日も絶好調で「何やねん」「あほちゃうか」「もうええわ」を連発していた。

病院のMSW(医療ソーシャルワーカー、患者や患者家族の相談にのってくれる。大規模病院には在籍している事が多い)の方が来てくれて、近隣の療養型病院のリストをくれた。
市内の、知ってる病院の名前もたくさん載ったリストだった。

療養型病院とは、ある程度の治療が終わった人が、長期の入院をする為に行く所だ。
今日入院して来た病院は“治療をする為の”急性期病院なので、治療する必要のない(治療する方法のない)主人などは、長い間は入院出来ない。

ただ主人の場合、病気も特殊なので、なかなか受け入れ先が無いらしい。
ヤコブ病の患者が、入院先に困る事は、前に書いたヤコブ病の患者家族の掲示板で知ってはいた。
医療関係者でも実際に診た事のない病気の患者を受け入れるには抵抗があるのだろう。
「一応渡しておきますが、このリストにあるような病院は、まず無理だと思って下さい」と言われた。

同時に、「クロイツフェルト・ヤコブ病」の確定診断がやっと出た。
主人が少し疲れて落ち着いた時を見計らって病院を退去し、そのまま娘と保健所に行って難病申請に必要な書類をもらって来た。
思いのほかの量があった。
主人の病気がわかってから、いったいどれだけの書類やら手続きやらを経て来た事か。

難病申請をするには医師に書いてもらわないといけない物もたくさんあって、それをお願いする為には時間内に指定の窓口に行かないといけないので、また仕事を抜けないといけない。文書料(書いてもらう為のお金)も安くはない。

何か進む度に壁にぶち当たる感じがずっとあった。

とりあえずは、家に帰って一晩ゆっくり寝ようと思った。

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