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告知について

「クロイツフェルト・ヤコブ病の可能性が高いです」

主治医のこの言葉を、入院中の主人は一人で受け取った。
そしてその晩、仕事から帰って来て家に居た私に電話でそう言った。

「知ってる?」と尋ねられたけど、どこかで聞いた事がある様な…みたいな感じだった。
電話を切ってネットで調べてみた。

あまりにも、絶望的な事しか出て来なかった。

「発症率は100万人にひとり」
「原因は殆どの場合不明である」
「治療法はない」
「認知症の様な症状が出る」
「進行がはやく、通常半年から2年以内に死亡する」

頭がついて来ないというとは、こういう時の事を言うのだろう。
現実離れしすぎてて、理解が追いつかない。
昨日まで住んでた世界に、こんな言葉無かったもの。

それと同時に、こんな残酷な現実を、医者は本人に告知するんだという驚きもあった。

ネットで調べた感じでは、この病気は本当に進行が早くて、歩いて入院して来た人が何週間か検査している間に喋る事も、歩く事も出来なくなってしまうというケースも珍しくはないらしい。
だから、主人のように本人が理解出来るうちに、本人に告知するという場合の方が少ないのかも知れない。

結局そこから更に検査を積み重ねて、最後に主人と二人、病院の面談室のような所でスクリーンに映し出された様々な検査結果の説明を主治医から受けた。
まだ若い主治医とその上司の医者に看護師長まで顔を揃えていて、それが本当に滅多に無い大変な病気である事を語っていた。
「ああ、診断は変わらないんだろうな」と漠然と感じていた。

そこで言われたのは、あらゆる検査をして、他の病気の可能性を潰していったので、ほぼヤコブ病であるだろうという事。
でも確定診断をするには髄液検査しかなく、それも長崎大学だかどこかが研究の合間にしているだけなので、検査結果が出るのに何ヶ月かかるか分からない事。
それだけ待って結果が出ても、100%の正確性はない事だった。

「早いうちに身の回りの整理をされた方が良いと思います。
 ご自分しかわからないものもあると思いますんで」
主治医は最後にそう言った。


感心した事に、私より主人の方がずっと落ち着いていたと思う。
もともとあまり騒ぐタイプでも無く、変な鈍感力は持ち合わせていた。
(これが原因で私の怒りによく火をつけてくれた)

主治医が本人に告知した事についても、
「言うても大丈夫と思われたんちゃう?」
と、何故かちょっとドヤ顔で言われた事を覚えている。

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