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フランス語試験とよく会う友達

私がバンドをやっていたときに、折に触れ偶然出会う友人がいる。

フランス語試験

その日私は京都に来ていた。フランス語の試験を受けるためだ。もともとフランス語の試験は受けるつもりはなかったのだが、次に申請しようと思っていた奨学金の出願の必須項目であったため、受験することにした。
午前中は聴き取り、長文読解、文章記述があって、午後から面接試験という構成。
午前中の試験をなんとか終わらせたところで、午後の面接試験まで随分時間がある。たしか私の面接時間は16時とかだった気がする。
試験会場であるアンスティチュフランセ関西は、要するに京大西部講堂の南、実家の近所だから自転車で帰ろうと思って帰れないことはない。
けれど一度帰宅すると集中力が切れてしまいそうだったので、百万遍をフランス語をぶつぶつ言いながら歩いて、午後の面接の試験対策をすることにした。

友人家族にあう

午後の試験までにまだ随分時間があった。
私は考えた。
「ひとまず何か食べよう」
午前中に聴き取り、長文読解、文章記述というなかなかハードな試験を終えて私の脳はかなり疲労していた。
糖分を欲している!
百万遍には学生街なので食堂を選ぶのに苦労はしない。私は今食べるべきもの条件をいくつか考えた。

・できるだけ普段っぽい食べ物を食べよう。グルメに寄りすぎてはだめだ。美味しくなかったときは悲しいし、味の感想など試験当日には無駄でしかない。
・こんなときはよく「カツ(勝つ)」を食べるという。別に信じてないけど、こういうしょうもないノリに付き合っている自分をメタ的に楽しむ嗜好が私にはある。

ということで結局、某東海有名カレーチェーン店でカツカレーを食べることにした。
入店すると突然、「季節くん」と声をかけられた。(実際にはもちろん本名で)
みてみると随分、久しぶりに会う友人だった。奥方様と御子息も。

友人といっても大の仲良しというよりは、まぁ友達という関係の、彼はむかしレインコウというバンドをやっていた。
たぶん一緒に遊んだことなどは一度もないが、なぜか彼とはたまたま出会うノダ。たまたま出町柳で花見をしていたら隣の団体にいたこともあった。

「ボロフェスタで来たんですか?」

全く予想だにしなかった質問。完全なる死角からの質問で一瞬何のことか理解できなかった。

そう聴かれて

「え、今日、ボロフェスタなんですか?」

と変な調子で答えてしまった。

自分は、ある事情があり、仕事を辞め、京都を離れ、フランスを目指し、奨学金に落ち、論文に落ち、アルバイトに落ちた特に何もしていない40近いおじさんだった。
ここにはフランス語の試験を受けに来たおじさん。
なんとなく今の自分の置かれている状況に胸を張る気にはなれなかったし
様々な楽しくもない事情を一から説明する時間も雰囲気も、某東海有名カレーチェーン店は持ち合わせていなかった。
もちろん私にも彼にもその後の予定があるだろう。
そのため
「いやぁたまたま京都に〜」
みたいにふんわりと答えてしまったように思う。

「ボロフェスタか、、なんだか随分、昔の自分と今の自分は違っているな」

素直にそう思った。
変わった自分に別に特段感慨はなかった。寂しくもないけど嬉しくもない。ただ時が経って変わったものと変わらないものがあるだけだ。

彼は会うたびに演奏の機会を誘ってくれる。
それに応えれたことがこれまでなかったことが幾らか心残りだった。
その日は、彼と少し話をして別れた。

カツカレーを食べ終わって、通りに出て
自分が随分遠くに来てしまったと思いながら午後の面接の練習した。ぶつぶつとつぶやきながら百万遍や京都大学のキャンパスをふらつく。フランス行きを確かなものにするために、何としてもこの試験をパスしなければならなかった。

「次に彼に会うときは、是非一緒に演奏したいな」と今は思っている。

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