タンタンとの出会い
京-都アパートメント
仕事を辞め赤穂への転居を決めた時、私たちが立てた次なる目標は「フランスへ行く」だった。そこにはかなり大きなジャンプがあるのは自分でもわかっている。だけど、望ましい事態ではないにせよ、せっかく仕事を辞めて社会人としての道を外れるのだから、それくらいジャンプしないと勿体ないと思った。フランス人の友人、タンタンに相談すると「奨学金に応募すればいい。それに必要な協力はなんでもする!」とアドバイスをくれた。
その頃の私はなぜか、京都大学の学生に混じって哲学の教室に出入りしていた。その曜日は仕事は半休をもらって昼からは京都大学の学生だった。そのころ出会ったのがフランス人のタンタンだった。私が彼と初めて会ったのは、妻の高校の同級生夫婦が管理人を務めていた留学生が集まるアパートのウェルカムパーティでだったと思う。京大へ哲学の勉強をしに留学できていたタンタンに、私はフランス語を勉強していることやお気に入りの哲学者などについて話した。もちろん流暢に英語を喋れるわけではない。日本語と英語が激しく混じり合った言語スタイルは誇張なしにルー大柴のそれであり、コミュニケーション相手からすると、その苦労は想像を絶するだろう。
フランス哲学・アニメ・音楽
タンタンは日本文化が大好きな所謂「オタク」だった。日本の哲学(京都学派)の研究をし、「ハンターハンター」より「幽遊白書」を愛し、「幽遊白書」より「レベルE」を愛するフランス人だ。彼は日本のオルタナティヴロックやサイケにも興味があったので、私のバンドのことを話すと大変喜び、すぐに友達になった。彼には「ヒーローアカデミア」や「チェーンソーマン」など現行のジャンプ漫画もたくさん教えてもらった。その後、今でも、これからも彼のサポートなしには私の生活は成り立たない。フランス語の練習から、奨学金申請のための書類作成から、フランス語での面接!!!の練習、ヒーローアカデミアの主人公「デク」が闇堕ちした話など、毎週のようにフランス-京都でインターネットを通してコミュニケーションした。彼のイチオシの漫画「ダンダダン」はまだ読めていない。
奨学金に応募する
ところで「普通の」、「まっとうな」社会人であれば、
「仕事が終わった後の時間でキャリアチェンジのために勉強して成功しました!」
という自己啓発本の一冊でも出せそうな事態であるが、わたしたちの場合はそうではなかった。
「仕事を辞めて、転地療養するので、これを機に留学のための奨学金に挑戦する」
という、自己啓発にならない、というかあまりお勧めできない事態を余儀なくされたのだ。しかしこの特殊な状況、ある種の危機を前向きに捉えようとする底力がまだ残っていた。ここから私の留学のための研究生活が本格的にスタートすることになった。
続く
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