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アリストテレース詩学・ホラーティウス詩論 松本仁助・岡道男訳(岩波文庫)

 悲劇とは、一定の大きさをそなえ完結した高貴な行為、の再現(ミメーシス)であり、快い効果をあたえる言葉を使用し、しかも作品の部分部分によってそれぞれの媒体を別々に用い、叙述によってではなく、行為する人物たちによって、おこなわれ、あわれみとおそれを通じて、そのように感情の浄化(カタルシス)を達成するものである。ここで快い効果をあたえる言葉とは、リズムと音曲をもった言葉のことを、またそれぞれの媒体を別々に用いるというのは、作品のある部分は韻律のみによって、他の部分はこれに反し歌曲によって仕上げることを意味する。

アリストテレース詩学・ホラーティウス詩論 松本仁助・岡道男訳(岩波文庫), p.34, 第六章 悲劇の定義と悲劇の構成要素について

 筋を組みたてて、それを措辞・語法によって仕上げるさいには、その出来事をできるかぎり目に浮かべてみなければならない。じじつ、このようにして、実際の出来事に立ち会っているかのようにすべてをできるだけはっきりと見るなら、適切なことを発見できるであろうし、また矛盾したことの見落としもきわめて少なくなるであろう。
 また作者は、できるかぎり、さまざまな所作によって筋を仕上げなければならない。なぜなら、作者の資質が同じである場合、感情を経験する者がもっとも人を説得することができるからである。すなわち、苦しんでいる者なら苦悩を、怒っている者なら怒りを、もっとも真に迫る形で再現することができるからである。それゆえ、詩作は、恵まれた天分か、それとも狂気か、そのどちらかをもつ人がすることである。天分に恵まれた者は、さまざまな役割をこなすことができるし、狂気の者は自分を忘れることができるからである。

アリストテレース詩学・ホラーティウス詩論 松本仁助・岡道男訳(岩波文庫), p.p.34-35, 第十七章 悲劇の制作について――矛盾・不自然の回避、普遍的筋書の作成

 したがって文体は、日常語とそのほかの語をある仕方で混ぜて使うことが必要となる。なぜなら、稀語や比喩や修飾語やそのほか上にあげた種類の語は、平凡でもなく平板でもないものをつくり出すであろうし、他方、日常語は明瞭さをもたらすだろうから。また、文体を明瞭にするのみならず、平凡でないものをつくり出すためにきわめて役立つものとして、語の延長や縮小や変形がある。じじつ、これらの語は、一方では、ふだん用いられるものから逸脱し日常語とは異なることによって、平凡でないものをつくり出すであろうし、他方では、ふだん用いられるものと共通の部分をもつことによって、明瞭さをもつであろう。

アリストテレース詩学・ホラーティウス詩論 松本仁助・岡道男訳(岩波文庫), p.84, 第二十二章 文体(語法)についての注意



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