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『猫狩り族の長』麻枝准

「もちろん全員とは付き合っていないよ。そもそも、あまりに人生が退屈で死にたかった時、頼っていたカウンセラーがとにかく休みの日に予定を入れまくれ、と言ったことに端を発する。私は土日になるたびに新しい誰かと会うような生活をそこから始めてみたのだよ。付き合ったのはその中でもほんの一握りだ。そいつらが、どんな奴らだったか教えたはずだ。私の生きる邪魔をしてくる奴らだ。そして、付き合うまでに至らなかったその他の人間は、面白くなかった。世に溢れている映画やドラマやクイズ番組といった娯楽と一緒だ」

猫狩り族の長, p53, 麻枝准

「結局のところ、理不尽なことがどれだけ巻き起こっても自暴自棄になってはいけない。自分が損するだけだ。そういうふうに世の中は出来ている。ぎゃーぎゃー泣き叫んでなんとかなるのは子供のうちだけだ。社会人になってからは通用しない。」

猫狩り族の長, p59, 麻枝准

「時間をかけて考えるがいい。いつの間にか四年経ってました、とならないようにな。何かを成そうと息巻いても、なんとなくテンションが上がらず、ずるずると惰性で生きていく奴がほとんどだ。そんな奴にもやがて恋人が出来て、結婚をし、子供が産まれ、その家庭を守ることこそが自分の人生なんだと生きるモチベーションが移ろってゆく」

猫狩り族の長, p83, 麻枝准

「生きるためのアドバイスだ。まだ、自分は特別だ、才能がある、ほかの奴らとは違うんだ、と思えているうちが華だ。なんの才能もないと気づいたら、そこから始まるのはただただ退屈な日々だ。ずっと勘違いして生きろ」

猫狩り族の長, p131, 麻枝准

「結局私が理不尽に思うのはそういうところなのだ。いくら私が私の生きている世界の大変さを言葉にして説明しても、他の奴らからすればそれは等しく他人事なのだ。対岸の火事なのだ。精々、大変そうですね、と同情されるだけなのだ。なぜこの大変さを誰も感じていない? なぜそれを相談する相手もいない? なぜそんな駆け込み寺がない? なぜ世の精神科や心療内科は私のような人間を救ってくれない? あいつらは口を揃えてこう言う。ちゃんと朝起きて、日の光を浴びて、適度な運動をしましょう、と。それが出来たら充分元気だわ。それすら困難なことをどうして理解してくれない? 古代や中世ならわかるが、この現代においてだぞ。この悩みは私が死ぬまで続く。死に至るまでの病だとも言えよう」

猫狩り族の長, p169-170, 麻枝准

「心が傷ついた時、身体的な傷と同じで、自然に治癒するのを待つしかないというが、それすらも私にとってはスローなのだよ」

猫狩り族の長, p236, 麻枝准

「そろそろ私の生きる世界がどれほど酷なものか、わかってきたか? みんな、私の体と精神で生きてみればいいんだ。そうすれば、すごく大変であることがわかってもらえるはずだ。鬱で学校や仕事に行けないひとに『怠けているだけ』と言う奴らと同じだ。そのひとの体感では死にたいぐらい苦しい。あなたぐらい仕事にも才能にも恵まれているひとがなにを、と言われるだろうが、私の体感では地獄なのだよ」

猫狩り族の長, p237, 麻枝准

「いや、底が浅く無個性な人間は記憶されることもなく、忘れ去られるからな。社会に出ると個性的なことは有利に働く。交際においても、興味が尽きない相手とは長く続くぞ」

猫狩り族の長, p247, 麻枝准

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