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『スタートレック』?いえ『レインマン』です 映画『人造人間クエスター』

 大ヒットした映画『レインマン』を観たとき、『人造人間クエスター』を思い出した。
 
 『レインマン』は、意外にも短足なトム・クルーズ演じる弟チャーリーが、言わずもがなの短身ダスティン・ホフマン演じる自閉症の兄レイモンドと、自動車で米国大陸を横断するロードムービーだ。

 300万ドルに及ぶ父の遺産を、存在も知らなかった兄に全て相続されたことに弟が立腹。半額を要求するために半ば兄を誘拐する。そして、本業の自動車ディーラーの仕事のためロスアンゼルスを目指す。
 1988年に公開され、アカデミー作品賞まで受賞した、名作の誉れ高き作品だ。

 私も公開当時に観た(正直言うと、後半ちょっと寝た)。そのときに思い出したのが、1977年にNHKで放映されたテレビ映画『人造人間クエスター』だった。

 『クエスター』は、『スタートレック』の原案で知られるジーン・ロッデンベリーが製作総指揮・原案・脚本を担当したことで知られる。米軍が制作中だったアンドロイド「クエスター」が脱走。制作に関わった科学者の一人ジェリーと共に、行方不明になっていたアンドロイド制作の中心人物であるバスロビック博士を探す、これまたロードムービーだ。

 相棒のジェリーが、本来感情のないクエスターとの交流によって人間性を意識し始める流れは、自閉症の兄レイモンドとの交流から弟チャーリーが人間らしさを取り戻す『レインマン』のプロットと共通する。

 『クエスター』には、クエスターとジェリーがカジノで荒稼ぎする場面がある。脱走中の軍資金が不足し始めたので、クエスターの能力を使ってダイスで勝つ。

 『レインマン』でも全く同じシークエンスがある。チャーリーがレイモンドとラスベガスのカジノで、カードゲームに参加。自動車の取引に失敗したチャーリーの損害を取り返す。
 この場面を観た当時、「『人造人間クエスター』と同じだ」と思ったものだ。

 この一般には知られていない『クエスター』がまさかのDVD化。早速購入して観たが、改めて『レインマン』と似ていると感じた。
 DVDの解説によると、当初クエスター役には『スタートレック』のミスタースポック役で知られるレナード・ニモイが予定されていたそうだ。『それは論理的ではありません』が口癖の無表情なスポックと、『論理的にも数学的にも、それは私です』といった、理屈っぽいセリフが多くて無表情なクエスターは、確かに共通性がある。

 『レインマン』のレイモンドも無表情だ。人並み外れた記憶力があるので、いちいち会話に細かい日付や数値が挿入される。自閉症なので当然、普通のコミュニケーションが取れない。自閉症であるレイモンドとチャーリーの一種軽妙なやり取りは、プログラムが不完全なアンドロイドであるクエスターとジェリーのユーモアさえ感じさせる会話を思わせる。

 残念ながら『レインマン』は、驚くほどあっけないハッピーエンドを迎える。バリー・レビンソン監督の『ダイナー』や『わが心のボルチモア』といった傑作は、ややもすると優しすぎる�同監督の作風をほろ苦い結末が引き締めてくれた。『レインマン』にはそのほろ苦い結末がなく、ややしり切れとんぼな印象を受ける。それが他の傑作との決定的な違いだ。

 これに対して『クエスター』はSFらしく、しまりのある結末を迎える。ネタバレになるので書かないが、2人の主役が歩き回った意味を理解できる。

 「似ている」と感じるのは個人的な印象にすぎないし、カジノの場面があるのも恐らく偶然だろう。本来、比較するものでもない。それを承知で、『レインマン』を観た人には『人造人間クエスター』をお勧めする。見比べる面白さがある。そして、爆発も銃撃も、カーチェースすらないのに最後まで引き付ける『クエスター』の素晴らしさに酔いしれるはずだ。
 

 

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