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原作と映像の関係を考えさせられた『疑惑』

 映画と原作の関係を考えさせられることがある。

 推理作家、夏樹静子さんの『Wの悲劇』を原作にした同名の映画は、内容が原作と全く異なることはよく知られている話だ。
 嵐の山荘で起こった悲劇の物語の脚本化を依頼された荒井晴彦さんが、そのままの脚本化を拒否。あくまで劇中劇として扱うことを条件に、脚本化を引き受けたそうな。
 薬師丸ひろ子さんが映画中で、主役を務める芝居が夏樹静子さんの『Wの悲劇』。映画の内容は荒井晴彦さんのオリジナルなわけだ。

 東野圭吾さんの大傑作『白夜行』のテレビドラマ版はさらに面白かった。
 原作が、殺人を犯した2人の主人公を、他者の視点から描いていたのに対し、ドラマ版は主人公2人の視点で描いていた。
 つまり、原作が描いていなかった時間を描いたオリジナルなのだ。

 松本清張の短編『疑惑』を読んで、あらためて映画と原作の関係について考えさせられた。

 映画『疑惑』は名匠野村芳太郎監督の隠れた名作。保険金目当てで老いた夫を殺害した容疑を着せられた主人公を桃井かおりさんが熱演。

 彼女を無罪に導く冷徹な弁護士を岩下志麻さんがクールに演じた。

 ところが、である。
 原作では岩下志麻さん演じる弁護士が女ではない。男なのだ。
 原作で男だった登場人物を、女性に変えたのだ。

 驚いた。
 映画の面白さの根幹に関わる設定が、原作とは異なる。
 なるほど、小説を映画化するとはこういうことなのか。
 小説のプロットなりエッセンスなりを生かし、なおかつ小説では描けなかった魅力を付加する。

 テレビドラマ版を観た後に読んだ『白夜行』には、また別の面白さがあった。
 映画を観た後の『疑惑』もまた格別だった。

 映画と原作の関係。もっとじっくり考えてみたい。

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