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旅すればよかった時代 映画「旅の重さ」

 旅をすれば人生が変わる。そう信じることができた時代だったんだな、と「旅の重さ」を観て思った。

 高橋洋子演じる主人公が、母親の下を離れて高知を旅する。そこで旅芸人や痴漢や文学少女や独り身の中年男性などと出会い、人生を考える。

 典型的な日本式ロードムービー。今見ると面映いほどナイーブな人生観が新鮮だ。

 散々多くの若者が旅をして、結局何も変わらずにいる例を見ているだけに(自分も含めて)、この映画の「旅」に対する無防備な肯定感はさすがにない。

 旅するだけで真実や価値が見えたりするほど人生は甘くないことを、すれっからしの中年おやぢは体験している。
 どれだけの若者がインドやタイを旅しながら、結局凡庸な人生を送っていることか。

 しかし、時代も若かった1970年前後に、今より旅することが厳しかった時代に、少女が人生に体当たりする姿は、今もって共感できちゃう。
 これが大学生の男だったら印象が違ったろう。

 それから旅する場所が四国だから、ということがかもしれない。
 インドやアメリカや北海道だったら月並みだが、四国という舞台の、公式から外れた意外性が、むしろリアルに心を打つ。

 今はないだろう旅芸人の生態も興味深い。
 座長演じる三国連太郎が、臭みのある演技を披露する。

 そして全編に流れる吉田拓郎の「今日までそして明日から」がいい。
 「卒業」における「スカボローフェア」に迫る、もしくはそれ以上に効果的だ。

 旅すれば、出逢って悩めば、人生が前進すると信じられたシンプルな時代の、てらいもない直球のフォークソング。
 46歳になった今でも、この歌詞には素直になれる。

 ちなみに高知の漁村で出逢い、自殺してしまう文学少女は、その後に大ブレークする秋吉久美子さん。

 いろんな意味で見応えのある映画でした。

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